第七章 ハーレム牢獄

第二百十九歩


 牢獄に幽閉されたかのような日々。

 学園祭の季節がすぐそこまで来ているのにやりきれない憂鬱が僕に重く圧し掛かる。


 昨年は”赤楚見高校の歴史”といったドストレートな研究発表で可もなく不可もなく平々凡々で事なきを得た。資料など身近に溢れる程あったから然程苦労も感じなかった。しかも提案者が笹島さんだった故、男子が従順だったのも上手く事が運んだ理由の一つであろう。


 当日も展示物が中心で人員も殆ど必要なく、管理者として2名置いておけば問題ない状態。勿論これは交代制とし、出席番号順での当番制とした。そのおかげで自由時間が増え、誰もが存分に学園祭を楽しめたと思う。

 ライブや演劇といった催し物も多く、友人と呼べる存在が限りなくゼロに近い僕のような人物でもそれにりに楽しめるのが赤楚見高校学園祭の良い所。だから一般枠でも単身で訪れる人がそれなりにいて、ボッチでも全然平気なのである

 

 そして今年、我がクラスはどうするかと言うと……


 出し物を決める際、動いたのはやはり

 中伝先生が担当の授業時間を割いて学園祭のテーマ決めを行うと言った時、真っ先にが手を上げる。


 「学校近くの商店街の歴史をテーマにしよう」


 高校生らしいテーマとのことで中伝先生からもすんなりと許可が下りる。しかもは”全て僕に任せておけ”などと大見得を切ったのも相俟って、クラスメイトも煩わしいのはイヤだと大多数がこの意見に賛同。


 別案を唱える者も僅かばかりいたのだが、は個別にヒソヒソ話で納得させていた。聞こえないので内容は把握できないものの、相手のあのイヤラシイ笑みを見れば大凡の想像がつく。間違いなくエロ関連だと。

 そして中伝先生ともなにやらヒソヒソ話していた。僅かばかりに僕の耳へと届いた言葉から、何かを販売するようなニュアンスだったかと思う。


 テーマが決まってからは早かった。昨年の”赤楚見高校の歴史”同様資料集めも容易で、今年も笹島さんが仕切っていたのだから当然か。


 すんなりと事が運んでいるかのように思えるのだが、それならば僕が憂鬱となる必要も無い。実は今回の出し物が決まった当日、例の喫茶店で”三河会議”が開かれていた。


 「先生と生徒会は僕が抑えるから、皆はライブ主導で全体を取り仕切って。んでゴミッキーとつるりんは僕を手伝ってね」


 密談終了後、喫茶店を出るなり僕達は早速行動を起こした。そして三河君に連れられて行った場所は……


 「不動産屋?」


 「そうだよ。今回の学祭で土地を売るんだ。んで利益の一部を紹介料としてピンハネするのさ」


 「!」


 何を言っているんだこの男は!?

 僕達はまだ高校生だぞ?

 そもそも資格も無しに土地など扱えるワケなかろう?


 それでもこの男は臆することなく不動産屋の敷居を跨ぐ。

 仕方なしに僕とつるりんも彼へと続いた。


 「いらっしゃせ。本日はどの様な御用件でしょうか?」


 「この不動産屋さんで一番偉い人とお会い出来ますか? 因みに僕は三河と言います」


 え!?

 一番偉い人だって?

 直接交渉する気かこの男?

 

 「アポイントは御取りでしょうか?」


 「きっと三河が来たって言えば分かると思うよ」


 「ハァ?」


 バカかこの男は?

 どこの三河かが重要だろうに?


 「これはオタクの所有するボロアパートに住む古屋関連でもあるから……」


 「古屋……あっ! しょ、少々お待ちを!」


 これは相当なカードだったようで、受付の女性は慌てて奥の部屋へ駈け込んでいった。


 「ちょ、三河君、古屋さんの名前勝手に出していいの?」


 「いいんだよ。後でちゃんと説明するから」


 待つ事数分、受付の女性と共に奥から恰幅の良い初老の男性が出てきた。やけに威圧的で眼光鋭いその男性は三河君を見るなり、


 「やや? 君はあの時の……三河君だったかな?」


 すると今度はへにゃっとなり、


 「君は古屋さんとも知り合いなのかい? こんな場所ではなんだからこちらへ来なさい」


 と、ニッコニコの笑顔で僕達を奥の応接間へと案内する。


 「ささ、座って座って」


 部屋に入るなり全員腰掛けると、今度は受付にいた女性に対し、


 「あー君、彼にビールを。それと他の皆にはジュースをお出しして」


 すぐさま僕達の前へ飲み物が並べられると女性は早々姿を消した。


 三河君はどうやらこの不動産屋の人と面識がある様だ。でなければ彼に対しビールなど出す訳も無く……いや、ダメだろう?


 「先日はどうもありがとう。おかげですんなり取引が成立したよ。でも、まさか君の一言で決まるとはなぁ」


 何の話だろう?

 古屋さん絡みなのは間違いないと思うのだが……。


 「元々女将はこの商店街で商売したいって言ってたからね。でもまさかあの日に商談しているとは思わなかったよ。値切られまくって相当困ってたみたいだったからつい……」


 「私だって料亭に君みたいな少年がいるとは思わなかったよ。しまもあの強気な女将が君の一言で簡単に折れたんだからそれはもう、驚いた以外の言葉が見当たらなかったし、聞けば一緒にいた人は……」


 「あ、それ以上は言わないで。あの人達、お忍びで来てたから」


 僕とつるりんは二人の会話に付いて行けず、完全に借りてきた猫状態。まぁ、それは置いといて、この男が料亭で遊んでいる事実に開いた口が塞がらない。もしやおっさんが三河君の着ぐるみを着ているのではとさえ疑ってしまいそうになる。


 そして僕達はこの後、更に驚くこととなるのであった。


 


 

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