第二百十八歩
結局なんだったのか。
要約すると治村さんが笹島さんだけではなく、僕のガーディアンにもなったってことか。
喫茶店キス事件の次の日から、治村さんは学校が終わると必ずといっていいほど家へ寄るようになっていた。
毎日熱田家へ立ち寄るということは、僕の家族と顔を合わせる機会も当然増え、そうなると仲良くなるのはモチのロンのこと、次第に我が子の如く振る舞うようにまでなっていた。
しかも、笹島家と治村家は以前から家族ぐるみでの付き合いがあったこともあり、休みになると笹島さんの両親だけでなく、治村さんまでもが両親を連れて我が家の戸を叩くまでとなっていた。気付けば熱田家、笹島家、治村家を交えたファミリーユニオンとなっていたのである。
当初は遠慮していた治村さんだったが、家へ来る回数が増えるにつれ図々しくなり、いつの間にやら彼女も熱田家へ寄生する事態に。
これに我が父が猛反対をするものの、多勢に無勢で押し切られてしまうのだが、まぁ、僕としては当然そうなると踏んでいた。
何故なら治村さんがそのまま年齢を重ねただけのような彼女の母親に、僕がそのまま老いたような僕の父親が勝てるワケもなかろうと確信していたから。
一応治村さん母の名誉の為に言っておくが、この時彼女から暴力の類は一切無かった。が、そこは娘である治村さん同様のナイスバディによる色香に惑わされて、結果、僕の母による様々の暴力が……。
因みに僕の父だけが猛反対した理由は、彼の書斎と言う名の物置部屋を治村さんの部屋へ宛がう話の流れとなったからである。
多趣味でコレクション癖のあった僕の父。彼の書斎を空けるということは、結婚する前から集めていた物も含め、部屋の中身全て処分しろと言われたのに等しい。
これには猛反対も頷ける。普通ならば一家離散の流れにもなりうるような出来事だ。が、孤軍奮闘もこれまでで、先程の色香に惑わされ事件のせいもあり、父さんとしてもウンと言わざるを得ない状況に持ち込まれてしまった。
唯一の救いと言えば、笹島さんの御両親が趣味の品物ぐらいなら預かってくれると提案してくれたことだろうか。娘もこちらへ面倒かけているし、そのお陰で部屋も余っていると。
こうして渋々オッケーした父だったが、彼の背中が実は泣いていたのを僕は一生忘れることはないだろう。そしてこの気持ちは男しか分からないと思う。
まんまと父の書斎を手に入れた治村さんだったが、流石に悪いと思ったのか、僕の父を気にかけて接触が多めの日が暫し続いた。それが功を奏し、あっという間に熱田家へと溶け込んだのであった。彼自身も自分を慕う娘が増えたと相当に嬉しかったのだろう。よく会社帰りに治村さんと笹島さんへお土産を買ってくるようになったのがその証拠。
そしてここからはあくまでも僕の想像の域を超えないが、これ等の裏には全て笹島さんの母親が絡んでいる気がする。事実、治村さんのお母さんが色仕掛けを始める前、なにやら笹島ママとゴニョゴニョしていたのを僕は知っているし、なによりあの部屋云々のやり取りで皆が揉める中、一人ソファーへ座り、お茶を啜った後のニヤリと笑う彼女を見てしまったのである。尚、その時の表情は人間を騙し得た悪魔そのものにも見えたのは僕の心の中だけにしまっておこうと思う。
釈迦の手のひらで踊るとは、このような事だろうと考えさせられる出来事だった。
こうして治村さんが我が家の一員となったのは勿論のこと、気付けば週末は笹島母治村母共に我が家へお泊りするのが当たり前となったのである。そして父親は父親で仲良くなり、これまた週末は逆に笹島家か治村家へのお泊り会が催しされるのであった。
こうしてゴミッキー(僕)だけが自由を失った。
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