第百十二歩


 「!」


 この場にいる誰もが(五平先輩以外)かつてない衝撃を受けたに違いない。

 いや、色々な意味で。



 あまりにも刺激的内容な為、ショーの内容は割愛する……ではなく、割愛せざるを得ない。五平先輩の言う通り、確かに芸術性も高かったのだが、如何せん僕達はまだ高校生、どうしてもエロ目線の方が上回ってしまう。綺麗なお姉さま方が音楽に合わせて脱いでいくだけならまだ何とか耐えられたものの、目の前で”全開パカッ”なるアクションを取られれば時間停止魔法をくらったかの如く動きが止まってしまうのは必然。どこからどんな目線で見てもエロい以外の言葉が見つからなかった。


 これはあくまでも僕を代表とする男子目線なのだが、どうやら女子もよく似た感情に囚われたようである。


 何故そう言い切れるのかだって?

 それは宇宙一美しいはずだった(三河軍団が現れたせいで過去形となった)笹島さんが知らないうちに僕の隣へと席を移っていたから!

 しかも僕へと寄り添い、その上腕に絡むようしがみついてきたのだ!

 

 密接した笹島さんの荒くなる吐息に興奮した僕は途中からショーどころではなかった。冷静に考えると少し損した気分。でも彼女の胸を押し付けられた腕を考えると、それはそれでオッケーと言えよう。


 興奮して舞い上がった僕は、このような場合どう行動するのが正解なのか経験がなく、とりあえず前の座席へ座る千賀君へ目を向ける。するとどうだろう、あろうことか彼は隣に座る伊良湖委員長と互いに上半身抱き合いながら頭突きをしているではないか。


 ……訂正、認めたくなかった現実を目の当たりにして、つい真実から目を背けてしまった。


 キスしていたのだ!

 チュウ、接吻、ベーゼ、口づけ、口吸いを!

 

 おい千賀!

 キサマは笹島さんに全てを捧げると誓ったのではないか?

 目の前にある据え膳に躊躇なく食いついてしまうだなんて!

 

 それは男としてどう……いや、僕も偉そうなことは言えないかも。偶々隣が笹島さんだったから緊張してしまい、今現在木偶の坊と化しているが、それが別の女性だったならば、果たしてこのような状態のまま保っていられるのだろうか。その上女性の方からアクションを求められればやはり千賀君と同じ行動をとってしまうかも。必ずしも千賀君がその過程を得て現在に至った訳ではないと思うけれど。


 正直隣に座る笹島さんの存在とショーに夢中だった僕は、千賀君なんてどうでもよかった。しかしその事がここへ来て災いした。彼と比べて出遅れ感が否めない。どのような経緯でチュウへと至ったのか見習わなければならなかったというのに、まったく僕ってやつは……。


 ここで改めて治村さんと五平先輩に目を向ける。

 やはり先輩もショーで感情が高ぶったようだ。


 近づいてキスしようと唇を伸ばす五平先輩の顔面を足で押さえ、両手で必死に防御する治村さんの姿を僕の両眼高性能カメラが捉えた。彼女は身を守るのに必死でショーによる影響どころではないらしい。

 

 そんな治村さんを見ていたら、気の毒だなとの感情と偶にはいい薬だと思う気持ちが半々となって微笑ましさを覚える僕だった。


 ここでハッと我に返る。

 彼等を見ているうちに、僕、熱田久二の心の奥へと住まわる悪魔が顔を覗かせる。

 

 もしかすると笹島さんへもっとお近づきとなれるんじゃないのか?

 今ならギュッと抱きしめてもスルーしてくれるのでは?

 ひょっとしてチューしても許されるのでは?


 千賀君及び五平先輩という性欲の権化にそそのかされた聖人の僕は、エロエロショーの追加ブーストに押された事もあり、ついにその心を決める。ここでやらなければいつやるのかと己に問いただす!


 やってやらぁっ!


 そして僕は、自身の持っているアリンコ程の小さな勇気を振り絞り、笹島さんの方へ体を捩じって彼女の後ろへと両腕を回して力任せにギュッと抱き寄せる。


 その流れのまま、口づけを交わした。



 ドキドキして心臓が爆発しそうだよ僕ってば!

 


 


 

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