第百十歩


 「おっそーい遅い! アンタ達何やってた……うがっ!」


 待合場所に向かう僕達を発見するや否や可愛らしい声でプリプリする治村さんだったがそれも束の間、キモキングの登場で一瞬にして葉の裏へと密集している毛虫の幼虫群を見たような表情へと変化!


 「ど、どうしてキモ……五平先輩がここに!?」


 あからさまにキモイと言おうとした治村さん。当然彼女と同様な感情を抱く笹島さんと伊良湖委員長の顔色もすぐれない。仮に僕が五平先輩なら彼女達の態度を眼にした途端、気分を悪くすると思うのだが……。


 「お、いつものメンバーじゃないか」


 スルーだった。

 もしかしてバカ?


 「お前ら以前も一緒にいたけど、三人セットが通常仕様なのか? 金魚のウンコか? うわーっはっはっはっ!」


 言っている事は理解できるものの、その笑い方や言い回しが非常にキモくて意味不明。本当に僕等と同じ星の住人か?


 「ウマい具合に三対三でカポー成立だな。そこのかわいこちゃん(笹島さん)はマジメ野郎とセットに、んで、おとなし子ちゃん(伊良湖委員長)はチンピラ茶髪とな」


 この時点で治村さんは死刑宣告をされたようなもの。もっと言えば宣告ではなく刑が確定し、尚且つこの後即実行となる。なにせあの汚泥……いや、五平先輩のパートナーが確定したのだから。冷静に考えると死刑のほうがまだ温情があるような……。


 「よし、んじゃちょっと行きたいところがあるからお前ら全員僕についてこい。いいなっ!」


 ウキウキ気分で先頭を歩く五平先輩。僕達は奴隷商に連れられてオークション会場へと売られに行く気分。別に騒ぎ立てているワケでもないのだが、不思議と僕等は周りの人々から注目を集めた。それは美しい笹島さんや茶髪チャラ男の軽薄な千賀君でもなく、ましてやふつ男代表のような外観性格を持つ僕でもない。そう、ギャラリーが注視するのは本当に人類なのか疑わしい程キモイ五平先輩の姿であった。オエッ。


―――――――――――――


 「おーここだここ!」


 商店街を歩く事十数分、どうやら目的地に着いたらしい。


 「あれ? ここって……」


 千賀君がぽつりと呟いた。

 何故ならこの場所は先程三河君が連れ去られたストリップ劇場『ミリオン座』の真ん前。


 「らっしゃい五平ぼっちゃん!」


 ミイラのように全身包帯グルグル巻きで、同じく頭髪もロッドの代わりにマッチ棒で巻いたのかと思うぐらい細かいパーマをかけた、なんだか見覚えのあるその男は五平先輩へと卑屈にご挨拶。


 (あれってさっきのパンダにやられた呼び込みの人だよな?)


 彼はまだ生きていたようで内心ホッとした。

 そしてどうやら五平先輩は常連のようだ。


 (昔この辺りに住んでいたのだろうか? まさか僕らの住む街から通っただなんてことはないよね?)


 「ちょ、原さんどうしたのその姿!?」


 「いやね、数時間前、営業妨害にあっちゃってさ、説教かまそうとしたら逆にやられちゃってコレもんでさぁ」


 営業妨害か。確かにぐりんぐりん頭の言う通り、あれは完全なる営業妨害で彼に非は一切ない。その上暴力まで振るわれ裁判沙汰になってもおかしくない出来事だった。


 「ったく、犯人が分かんねえからどうする事もできやしねぇ! こちとら完全にやられ損でさぁ! うわーっはっはっは!」


 「笑いごとじゃないんじゃない? 僕で力になれることがあったら言ってよね」


 言葉で労う五平先輩を見るに、二人は相当親密な関係と思われる。見た目スジ者と仲がいいだなんて、やはり五平先輩を軽く見てはいけない。


 「いやね、なんだかキレーなネーちゃん数人が店の前で人集めてなんかやってたんよ。んで注意しようと話しかけたら一緒にいた着ぐるみのヤツが突然襲ってきてな、あっちゅーまに関節決められそのままゴキッよ。ありゃー相当な修羅場くぐってんな? しかも声からするに女で間違いないわな」


 「えっ? 女!?」


 五平先輩の顔色が変わった!

 先ほどまでキモい程にツヤツヤと血色がよかったのに、一瞬で死体のソレへと変化した!


 その後も犯人らしき集団の情報を耳にする度にビクつき変な汗を垂れ流す五平先輩。そのありえない程キモイ姿に僕達全員ドン引きしたのは言うまでも無かった。


 頼むから僕達に気付かないでおくれよパンチパーマの原さんってば!



 

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