第百八歩
「やっぱウナギはウマいっすね!」
「だな。学校近くのウナギ屋もいいけど、あそことはまた違ってフワフワやわらかくってうんまいな!」
僕達の通う高校の近所には昔ながらの商店街がある。五平先輩の言うウナギ屋とはそこにある老舗。幼少からウナギはセレブ御用達で一般人が口にするなど恐れ多いと両親から刷り込まれていた僕は当然一度も食べたことがない。
「あそこは焼きオンリーだけれど、こっちは一度蒸してから焼くスタイルなんでその違いが食感にモロでるなー」
食通を気取る五平先輩になんだか心がモヤモヤする。いや、キモくて虫唾が走ると言ったほうが正しいか?
「僕は生まれて初めて食べるから比べられないけれど、美味しいのはわかります」
「え? 熱田ウナギデビューなの? 俺だって年一くらいは食ってるぞ?」
僕の家は貧乏だったのだろうか?
別に困窮した生活ではなかったと思うが。
しかし贅沢でもなかったかな。
なにせ今日まで一度もウナギなるものを口にしたことが無かったし。
「お前らいつも三河君といるんだろ? 一緒なら商店街の店に限りどこでもフリーパスだろう?」
「え? それってどういう意味っスか先輩?」
五平先輩に言われて気付いたことがある。三河君と出会って以降、商店街にある古臭い喫茶店へ何度か行ったけれど、一度もお金を払った覚えがない。あれは確か……。
「古屋さんか奥方連中が必ずと言っていい程その場に現れて、全部清算してくれるはずだけれどな。それが例え高級なレストランだとしてもだ。まぁ、あの商店街に高級レストランに該当する店があるかどうかは別として」
そう言えばゲーロタワーのステーキハウスにしたって一銭たりとも支払った覚えはない。だけど僕個人として、たかられた記憶が多いのはなぜだろう?
「だけど時々はこちらが犠牲となるけどな。僕も以前、三河君たちとの食事代の為にデイトナを売った過去があるし」
「マジっスか!? デイトナってウン十万するんじゃ?」
ウン十万だと!?
このイモ虫がそんな金を持っているだなんて世も末だ!
「まぁな。けれどそれ以上の恩恵に与っているのもこれまた事実なんだな。ちなみに桁が一つ違うぞ茶髪」
なんだ、ウン万円か。それなら分かる。でなけりゃ僕は夜逃げ必至だ。
「マジで!? せ、先輩、俺あんま金持ってないっスよ? この先三河と付き合っていけるんかな? そもそもここ払ったら破産なんスけど……」
「幸か不幸か三河君は女神に守られているから、彼がらみでは金の心配は皆無と言っていい。それとここの支払いは心配するな」
ホッと胸を撫でおろす千賀君。何を隠そうこの僕熱田久二も全く同じ気持ちだ。それに奢りとなれば先程とは又違った美味しさが生まれる。ウナギサイコーっ!
――――――――――
「いやぁ、美味かったっスね先輩! ご馳走様っした!」
「ご馳走様でした五平先輩」
「おう」
スマートに会計を済ませる五平先輩の後ろに控え、お礼を言いつつレジスターに表示された金額へ何気に目をやると、そこには万越えの数字が。
「ウナギならこんなもんか」
合計一万三千二百円也。
オイオイ、これって僕が被弾したなら財布が跡形もなく消し飛ぶ数字じゃんか!
キモキモ五平先輩の奢りで助かった。いやマジで。
これからオエオエ先輩の事を少しだけ敬うことにします。
それにしても侮るなかれニョロにゅる生物だな。
まぁ、美味しかったんだけれどね。
こうして食欲を満たされた猪八戒五平率いる熱田三蔵一行。ウナギを取り込み精気フル充填となった千賀悟空のノー天気さに翻弄されながらもお釈迦三河探しへと旅立つのであった。
いや、合流は夜まで無理って言ってたよね三河君ってば。
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