第百五歩



 {ブルブルブル……ブルブルブル}


 三河君という総大将を失った僕と千賀君の足軽二人は都会の林に落ちのびていた。


 「おい熱田、お前のスマホブルってね?」


 この先どう動けばいいのかとの考えが頭の中をぐるぐる回り、千賀君に指摘されるまでスマホの呼び出しに気付かなかった。


 「うん? 知らない番号だな?」


 普段ならば怪しげな番号には一切出ないのだが、今回は出先でトラブル真っ只中だった為、もしかすると誰かの助け舟ではとの甘い考えでスマホを耳に当てた。


 「もしもしキューちゃん?」


 ビンゴ!

 我が総大将は御無事であったか!


 「三河君? 今どこにいるの?」


 殿の無事に家臣の千賀君も安堵の表情を浮かべ……いや、ニヤケ顔で僕の近くへ。


 「おい熱田、俺にも聞こえるように頼む」


 「あ、そうだね」


 通話をオープンにして、三人で会話が出来るようにした。


 「実は僕自身も今どこにいるのか分からないんだよね」


 「え? それってどういう意味……?」


 「拉致られて目隠しされてんだよね。あれから車に乗せられ今現在移動中ってのはハッキリしてるよ」


 おかしなことを仰る三河君。目隠しされているのならばどうやって僕に電話したのだろう。しかも車の中ならば周りに必ず第三者が同乗しているはず。その上密室で狭い空間だから変な行動をすれば他の同乗者がすぐ気付くだろうに。そんな状況で電話って……。


 「あんまり難しく考えないで。それと僕はこのまま夜ご飯まで解放して貰えないと思うからそっちはそっちで楽しんでよ」


 全てお見通し。

 思考透視のスキル所持者かヤツは?


 「あ、あぁ、うん。でも僕と千賀君だけだと……」


 「そこは大丈夫、強力な助っ人を頼んどいたから」


 助っ人だと?

 拉致られているんじゃないのか三河君は?

 一体どのようにして彼は……


 『んもう、電話なんていつでもできるじゃないの? そろそろ私達と……(チュッ)』


 「うわっ! ちょ、今キューちゃんと話してるんだから邪魔しないでよね!?」


 『いやですー。やめませんからねー……(チュッチュッ)』


 「ちょっとちょっと、両方から責めないでったら!」


 『うふふふふ』


 電話口から聞こえてくる三河君と謎の色気ある声。しかも複数。

 おい三河、ぶっ殺すぞ?

 

 「と、とにかくだ、キューちゃんとイケメンは電車でも歩きでもいいからスカイタワーのある”したまち”へ向かって!」


 「下町? この辺りも下町だと思うけれど」


 「違う違う! 僕の言ってるのはタワーの麓にある商業施設”したまち”のことだよ! そこから見える一際高いタワーがあるでしょ? そこ行けっつってんの!」


 面倒になったのか、言葉が汚くなり始めた三河君。そもそも君がいなくなったせいでこうなったんと違うんか?


 「おい熱田、あれじゃないか? あの金色の……」


 「それは有名な”ウンコ”だよイケメン! だけど方向は間違っていないよ。その奥に聳え立っているタワーがあるでしょ?」


 「お、本当だ! スゲー高いな!」


 「そこの6階だか7階だか忘れたけれど、レストラン街へ向かって……」


 『ハイ、時間切れぇー。ここからは私達と……ガサガサガサッププププーップーップーッ』


 「あ、切れた」


 肝心な情報が伝わらないまま会話終了となってしまった。最悪だぞこれは。


 「まぁ、とりあえずだ、あそこへ向かえばいいワケだな。見た感じ結構近いと思うから歩いて行こうぜ」


 このような状況でも前向きな千賀君に救われる。今回も僕一人だったら思考は悪い方悪い方へと向かっていただろう。なにせ僕は自分でも嫌になるぐらいの超マイナス思考だから。


 「それにしても三河は何やってんだろうな? まさかこれからリンチを……」


 「そうだね。きっと誰にも言えないぐらいの激しい拷問をエッチな声の主から受けるんじゃないの?」


 真面目に三河君を思うバカがつくほど正直な千賀君の問いに対し、冗談交じりのある意味本音で答えた僕だったが、さてさてどうなることやら……。


 

 どうせなら大仏頭の集団にリンチされろや三河!

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