第百歩


 部屋へ案内された僕達は、大きいけれど一つしかないベッドに当初戸惑うも、そこは幼稚な精神構造の少年三人、じゃれ合っているうちに気付けば親犬のお腹辺りで重なる子犬同様すやすやと眠ってしまうのであった。そして……


 「起きるんだキューちゃん! 早くするんだイケメン!」


 家での目覚まし時計よりも大きな声でのモーニングコール。当たり前だがあの問題児からだ。寝てからどれだけ経ったのかは分からないが、なかなか開かない瞼から十分な睡眠時間が取れていないだろうことだけは瞬時に理解できた。


 「う、うーん……お、おはよう三河君」


 「ほえっ? もう朝なん? つか、今何時よ?」


 同じ寝ぼけていても千賀君のほうが覚醒は早いようで、今自分の置かれている状況を把握しようと辺りを見回しながら情報収集に努めている。それに比べ僕と来たら……。


 「まだ5時半だけどもうビュッフェは開いているはず。速攻食べに行ってゴブリンたちに襲われる前にホテルを出るんだ! ほら、ハリィーハリィーッ!」


 この部屋には着の身着のままで来ただけだから荷物など無い。だから目覚めて朝ご飯を食べに行くまで然程かからなかった。


――――――――――


 「さて、お腹も膨れたことだし、いつまでもこんな敵陣で油を売っている場合じゃない」


 三河君は何を言っているのだろう?

 敵ってきっと女子のことだと思うけれど、僕としてはその敵と一緒に行動したいのが本音。きっと千賀君も同じだと思う。


 「敵将メーに囚われれば拷問だけじゃすまないからね。特にキューちゃんは情報伝達ミスとか任務失敗で半殺しにされるんと違う?」


 「!」


 どうして僕と治村さんがツーカーだってことをこの男は知っている!?

 もしや旅の最初から全てを把握していたのか?


 「そんな鳩が通常弾頭ではないICBMくらったような顔しなくてもいいじゃん。あと今のうちにウンコ行っといたほうがいいんじゃないの? あ、スマホは僕が預かっとくからゆっくりでいいよ」


 (どこでバレた!? あの時か! いや、あの時からか!?)


 思えば若鯱屋での買い物時、この男は最初から治村さん達と行動を共にする事に気付いていたようだった。しかもウンコとスマホとなれば、僕が便所へ行くと言って情報漏洩していたことへのアテツケに間違いない。この男の情報網はどうなっているのだ!?


 「あ……う、うん。今はしたくないからいいや」


 額から流れ出る汗が止まらない。もしかして三河君に愛想尽かされるのではとの思いが僕の全身を強張らせる。


 「お、おい熱田大丈夫か? スゲー顔色悪いぞ?」


 「う、うん、大丈夫だよ千賀君。心配しないで」


 狼狽える僕をニヤニヤ笑いながら見ている三河君に恐怖を覚える。僕はどうなるのだろうか……。


 「よし、ウンコしないのなら早く行こう。そろそろホブゴブリンも起きてくる時間だと思うし」


 あれ?

 意外や意外、スルーされた?


 ここはポジティブな考えでバレてないと思うことにしよう。でなければこの先一緒に行動するのが恐ろしくて恐ろしくて。


 「ほら、いつまでも意地汚く食べてないで行くよイケメン! ライブは貧乏くさいのを嫌うからね!」


 「マジか三河!? ならご馳走さんっと」


 千賀君は速攻食べるのをやめた。しかし三河君が笹島さんの好き嫌いを知っているのは何故だろうか。それほど親密に話している姿を見たことはないけれど……まさか昨日のベッドの中とかではあるまいな?

 ※大当たり


 「イケメンは素直だな。ライブなんかやめて別の女性と付き合いなよ」


 「それもいいかもなー。だったら三河が世話してくれよ」


 おいおい千賀君、抜け駆けはダメだよ。


 「そうだね。機会があれば考えておくよ。あと、キューちゃんはライブがいるから必要ないね」


 「だな。悔しいけど、最近の笹島を見ていると案外熱田みたいのが好みなのかもな」


 「ザッツライッだよイケメン!」


 ふざけんなよ!

 フ・ザ・ケ・ン・ナ・!

 こんな時だけ仲間外れにするんじゃないよ!

 君達が見ている以上に僕と笹島さんの距離は離れているんだからな!

 ここからE・Tの母国までの距離の方が断然近いわ!


 「み、三河君、出来れば僕にも……」


 この時僕を見る三河君と千賀君の目は、網にひかかり臨終寸前となったメガマウスの瞳よりも瞳孔が開いていた。



 笹島さんは憧れるだけの存在で触ることなど出来ないから察しろよな千賀!

 だからそこんとこ頼むぞ三河!

 

 


 

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