第九十九歩
僕達は海道君と新瑞さんに気を使い、一旦部屋を後にしてロビーのソファーに屯っていた。既に時間は日にちを跨ぎ、深夜も深夜で周りには僕達以外、カウンター内に男性ホテルマンが一人滞在しているのみ。先程のような騒ぎ(帰って来て早々の正座)を避ける為、三河君が事情を説明してこの場に滞在する許可を貰ったのである。勿論ここでも呪いの漆黒カードが火を噴いたのは言うまでもない。
「そう言えばさっき二人の写真撮ってたよね? あれどうするの?」
それを聞いてニヤリと笑う三河君。
「とある方々へばら撒いた」
そう返答した三河君が悪魔に見えたのは僕だけでないはず。
それにしてもとある方々とは一体誰を指すのだろうか。まさか治村さんではなかろうな。だけど三河君は複数形で答えたから笹島さんや伊良湖委員長にも送ったとか?
「まぁ帰ったら東は説明責任を問われるだろうね。爆弾岩やヤマトヌマエビから」
意味が分からないな。
やはり集団リンチ(たぶん)で脳細胞の一部が破壊されたのだろうか。
「それは置いといてさ、明日は
「
「あれ? 新幹線での話し合いと全然予定が違うけれど大丈夫なんか三河?」
千賀君の言う通り、当初女子と一緒に散策する予定を立てたはず。しかし今の物言いでは僕達三人での行動が前提となっているような?
「僕の顔面見てもそんなこと言える? 暫く女関係は遠ざけておくのがベストだと思う」
直視できないほどに腫れあがった顔(唇)。どのような経緯でそうなったのかは本人のみが知るところ。僕の想像するリンチとは別の羨ましい出来事に見舞われたのではないはずと言い切れないジレンマが心のモヤモヤ感を加速させる。
(本当になにをされたのかな三河君は)
話が尽きない僕達だったが、時間も時間だった為、誰もが眠たくなり始めていた。欠伸をする千賀君に瞼が半開きな三河君、そして先程口にした言葉を思い出せない意識モーローな僕。三者三様睡魔に襲われる中、コツコツと近づく誰かの足音が耳に入ってくる。そして三河君の背後でそれは止まった。
「お客様方がそこから動かないのは何かお部屋へ戻れない訳がおありでしょう。ダブルのお部屋をご用意致しましたのでそちらでお休みください」
それはホテル従業員だった。しかも部屋を提供するとのこと。普通なら絶対にあり得ない!
「あ……あーあ、うん。そっか、ありがとう。支払いはタコさんにつけといて」
「タコ……いえ、その多度CEOから承っておりますゆえ……」
茹蛸がなんだって?
三河君とホテルマンの会話は相も変わらずパンピーの僕如きだと意味不明で理解不能。一つだけ言えることはやはりあの冥界から呼び起こされた闇の如く黒いカードがここでも効力を発揮したであろうことである。全部推測だけれど。
「それでは係りの者がご案内致します」
ホテルマンが僕達の前から姿を消して数分も経たないうちに別の従業員が僕達の前へ現れこう説明する。
「お部屋は赤楚見高校生徒様が宿泊している棟とは別棟になりますのでご了承くださいませ」
ホテルマンにしては少々年齢の過ぎている従業員に部屋まで案内されることとなった僕達。彼は五十歳ぐらいだろうか。思うにその年齢ぐらいだとデスクワークか管理職や幹部となるのが普通では?
「マジ! ってことは僕等の塒は他の誰も知らないって事じゃん!」
「そうなりますね。しかし生徒様を案ずる先生方を思うと、やはり朝にはご報告を……」
「あ、先生には言ってもいいけどさ、その時……」
三河君は突然立ち上がると年配ホテルマンの耳元へ自分の口を寄せて見えないように手で隠し、
「ゴニョゴニョゴニョ……」
典型的な内緒話スタイルで僕達にも聞き取れないぐらいの小声を使い何やら注文を付けていた。それが注文だと理解した理由に、内容までは分からないモノの、低級悪魔よりも醜いその薄笑いを浮かべた顔が全てを物語っていたと付け加えておくとしよう。
僕はまだ地獄に落ちたくないよ三河君ってば。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます