第九十八歩
部屋へ戻ると仲睦まじく男女が一つの布団にくるまれていた。そんな目を疑う光景に切れ気味で大声をあげたのはなんと千賀君。
「散れっ!」
その声に驚いたのか、寝ている布団から首だけを起して僕達を見る海道君の表情はこの世の終わりを見た予言者にダブる。いや、預言者なんて見た事ないんだけれど。
「お、お前らもう戻って来たの!?」
そして次の瞬間、僕と千賀君は一瞬心臓が止まった。たぶん。
「スースー……」
あの毎度お高く留まり高慢チキで高飛車な他人を見下すのが日常の一度はギャフンと言わせたい女子ナンバーワンと全僕から陰口をたたかれている新瑞さんが、お淑やかに海道君の胸の中で寝息を立てているだと?
「イケメンちょっとスマホ貸して!」
「お? お、おう」
当初、二人の仲に嫉妬全快だった千賀君だが、女神の裸体に衝撃を覚え一瞬とはいえあちらの世界へ呼ばれるも、三河君に声を掛けられ再び現世へ。
「これをこうして……んで、こう」
{パシャッ}
「!」
今写真撮らなかったか?
それは犯罪すれすれと違う?
「おーお、やっちゃったね東。お前は一生天狗の奴隷だな」
今度は布団から飛び出して僕達全員の前で両手を突き出し、手首から先の部分だけ左右に振って、
「やってない、やってないからな! ち、違うから!」
と、トランクス一枚でこの状況を否定する海道君。同時に捲れた布団からはパンツ一枚での後ろ姿が露わとなっている新瑞さんが僕と千賀君の記憶領域を侵食し始める。本当にラッキーだ。
「部屋へ戻った途端に眠くなって布団に入ったのよ。んで知らないうちに寝ちまったようで……。お前等が帰って来る時の騒がしさで目が覚めたのもつい先ほどだったし、隣で寝ているコイツを見て一番びっくりしているのが俺なんだよ!?」
「ほんとかなぁー? なーんか用意されていた言い訳って感じだなぁ?」
誰が聞いても嘘くさい海道君の弁明だったが、僕と千賀君はそれどころではなく、少々前のめりとなって新瑞さんを見ていた。
しかしプロポーションだけは抜群だなぁ
「う~ん……」
僕と千賀君のレーザービームのような熱視線に違和感を感じたのか、ゴロンと寝返りをうつ新瑞さん。となれば、そう、巨大なメロンが露わとなるのは当然のこと。
「はうっ!」
形のいい胸を直に見た千賀君はつい大きな声をだしてしまった。
{パチリ}
新瑞さんが起きた!
しかも僕とバッチリ目があっている!
「あーあっ……あなた達戻って来たんだ」
目覚めた彼女は半身起こすと、そのまま両腕を天に向かって伸ばしそう言った。
勿論オッパイ丸出しでだ!
「いいのか天狗、チチ丸出しだよ? そのせいでキューちゃんとイケメンの腰が引けちゃってるし」
新瑞さんは恥ずかしがるどころか、その素敵な姿でこう返す。
「別に減るもんでもないし、見られるだけなら全裸でも平気よ。家では基本裸だし」
女性にしておくのが惜しいぐらいなそこら辺りの男よりも男らしい発言!
新瑞さんを見直した!
海道君ではないけれど、マジにホレてしまいそうだ!
「アナタ達と混浴するのも平気よ私は。逆に品定めをしてやるんだから」
「マジか天狗! だったら今から一緒にお風呂入ろうよ!」
三河君こそマジか!
この男は何を言っているんだ!?
てっきり冗談かと思っていたが、三河君は着ている物をあっという間に脱ぎ捨てると今度は新瑞さんの腕を掴み、強引に布団から引っ張り出し、
「天狗も東のパンツ剝ぐの手伝って!」
直後、三河君はダイレクトに海道君のトランクスへと飛びかかる!
「うわっ! ちょ、ちょっと待てよ三河……おいってば!」
「ほらほらほら、早くパンツ脱げよ! お前の小鮎で皆を黙らせてやれ!」
しかし新瑞さんは沈黙。自分の裸を見られるのは気にも留めないが、どうやら男性……いや、海道君の下半身に触れるのは相当に恥ずかしい模様。顔どころか全身紅色に染まり、火照っているようにも見える艶やかな彼女の姿に、蚊帳の外となっている僕とて冗談抜きにホレてしまいそう。
「もう、じれったいな! こうだっ!」
(見えた!?)
三河君は強引に海道君のトランクスを脱がすと、改めて彼と新瑞さんの手を握った。そして部屋に備え付けのお風呂場へ引張って行き、
「なんだ、ユニットバスじゃんか? こんな狭いお風呂は三人じゃ無理だから二人で入りなよ!」
と言って海道君と新瑞さんをバスルームへ閉じ込めてしまった。
そして僕達の方へ戻ってくると独り言のようにこう呟いた。
「ったく世話が焼けるんだから。天狗が羞恥心なくて事が簡単に運んだからいいもののブツブツ……」
つまり三河君は二人の仲を後押ししたんだとこの時初めて理解した間抜けな僕(と千賀君)。
それにしてもなんとも迷惑な恋のキューピットだなぁ。
とりあえず、全裸で丸出しは勘弁してよね三河君ってば。
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