第九十七歩
三河君の後方にあるベッド。大きさはシングルのはずなのに、ありえない程こんもりと盛り上がっている。
「お、おい熱田。あれって……」
同じ場所に目が釘付けとなっている千賀君も、それ以上は口にしなかった。
呆然と突っ立ている僕達の肩を叩き、大きくため息をついた後、三河君は言う。
「あいつらムチャクチャしやがって……ほら、早く脱出しよう!」
脱出したいのは三河君だけであって、寧ろ僕と千賀君は永遠とこの場所へ留まっていたい。なぜならベッドの中には神々しい裸体を晒しながら美女三人が眠っているからだ。
とはいえ、全員が全員裸とは限らない。間違いないのは掛布団が開けて半身露出している治村さんがブラをつけていないということ。
そのせいで僕と千賀君は彼女の二つある肉まん……いや、どら焼きの頂点にちょこんと乗っかったデラウエアに一点集中でフォーカス中。
(散々酷い仕打ちを受けたのだからこれぐらいのご褒美はあってもいいだろう)
しかし幸せな時間は長く続くはずもなく、
「ほら、いつまでもメーのオッパイ見てないで行くよ」
三河君は自分の両手を使い、片方を僕、もう片方は千賀君と、この光景を脳へ焼き付けているエロ収集家二人の襟首の後ろ辺りをガッチリ掴んだ。誰とてこの後秘密の花園からつまみ出されるだろう行為が簡単に予測できるゆえ、二匹のチワワは激しく抵抗するも、
「キューちゃん、それにイケメンも、あんまり彼女達に恥かかせちゃだめだよ」
この言葉で正気に戻る僕と千賀君。悲しいかな頭では理解しているものの、そこは男の子、即行動へと移るなど出来るはずもなく、力任せの三河君にズルズル引きずられながら部屋から出て行くハメとなった。そして廊下へ出ると直ぐに三河君はこう口にする。
「もうそろそろ東と天狗も終わった頃だろうし、部屋へ戻るとしよう」
こうして僕達の部屋へ戻ることとなったのだが……。
(うーん、一つ気掛かりなことがあるのだけれど……)
部屋へ戻る道中、僕はずっとあることを考えていた。
彼女達が全員裸だったのかもそうだが、それ以上に三河君と関係を持ってしまったのかが気になって仕方なかった。
(治村さんの姿を見る限り、どう考えても事を成した後のような)
となれば、伊良湖委員長は疎か、天使笹島さんも三河君の毒牙にかかったこととなる。それだと下着姿の笹島さんを見られたぐらいではペイできないし、治村さんの人に言えない部分を見たぐらいでは……あれ?
(僕ってもしかすると充分得してるんじゃないのかな?)
そもそもクラスの女子達と、それ以上に笹島さんとこれほど近い距離にいることが既にありえない話であって、三河君がいなければ僕は余り者として寄せ集められた陰キャグループの中に身を投じていたと考えられる。自分から声を掛けるなどと大それた行動などとれるはずもなく、物事に対し、挑戦する前から早々諦めるか、あるいは諦める理由を探していただろう。
(笹島さんは三河君が好きって公言していたから相思相愛になるんだよな)
元より僕の中で笹島さんは憧れの存在であり、身近で接するなんて滅相も無い。だからこれでよかったんだと……あれ?
まただ。
なんだかんだと言ってもう現実から逃げようとしているではないか。
知らないうちに諦めるクセが付いているのだろうか僕は。
自分を百八十度変えるのはきっと難しいだろう。
それにそれだとこれまでの熱田久二を全否定してしまう。
ならば少しでも変われるようにと勇気を出して一歩踏み出してみようではないか。
「あの、み、三河君?」
「ん、なんだいキューちゃん?」
「も、もしかして治村さんたちと……あの、その……しちゃったの?」
「!」
思い切って聞いてみた。
だが、思いのほか三河君はあっけらかんとしてこう答えた。
「いや、なにもしてないよ。僕からはね」
いつも笑みを絶やさない三河君の表情が一瞬曇ったように見えたのだが気のせいだったのだろうか。
それ以降、三河君は部屋へ戻るまで一言も喋らなかった。
いや、答えになってないからな三河!
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