第九十六歩
「いやんっ!」
それは僕(たち)にとって衝撃的な出来事だった。
寝ぼけているとはいえ治村さんに絡みつく裸の三河君は、慣れた手つきで彼女の着ているTシャツをあれよあれよという間に脱がしてしまった。
しかも肝心の治村さんはどうやらその行為を嫌がっていないとみえ、終始三河君の思うがままに。
「!」
このような状況となり、タコ三河とイカ治村の絡み合い劇場を見せつけられ……いや、どこまで進むのか固唾(生唾)を飲んで見守っていたのは何も僕だけではない。それは伊良湖委員長と愛しの笹島さんも同じ。
「はぁっ」
喜ばしいことに、同じ状況下の二人は正座している僕の両隣に座り(千賀君は伊良湖委員長の足で既に移動済み)、僕の腕にギュッとしがみついていた。それだけで天にも昇る気分だというのに、三河君の妙技で下着をずらされた治村さんの人には言えない場所が……
(み、見えた!)
このまま最後まで行ってしまうのかと思われた次の瞬間、三河君は再び治村さんの唇に自分の唇を重ね、満足したのか燃え尽きたように深き眠りへとついたのであった。
「みかわん……」
治村さんは完全に落ちたらしく、眠っている三河君に抱き着きチュッチュと至る場所へ繰り返しキスをした。そして……
「ちょ、い、委員長?」
(チュッチュッ……)
「あっ! ご、ごめん熱田君」
二人に感化されたであろう伊良湖委員長が僕の頬や首筋へ同じようにキスをしてきたのだ!
「あーあ、痣だらけになっちゃったよ熱田君の首筋」
伊良湖委員長のキスも嬉しいのだけれど、出来ればその役目は笹島さんにお願いしたかった。その笹島さんとて淫魔に精神を支配されそうとなるも強い意志でそれを拒んだ模様。その証拠に合わせた両掌を正座している彼女自身の太腿の間へ滑り込ませ、ブルブルブルブル小刻みに震えている。
同様の経験がある僕は断言する!
笹島さんは今、頭の中がイヤラシイ妄想で一杯のトランス状態で間違いない!
(あぁ、そんな姿を見たくはなかったよ笹島さんってば)
だけど胸が肘に当たっているのは気にしていないようだ。ターキーさんといい、一生分の幸運を使い果たしてしまったのではと思われるぐらい幸せバブルの真っただ中!
「おい」
そう思っていた時が僕にもありました。
治村さんに立ってからの顔面踏んづけ懲罰を受けるまでは。
「お前は見てはならないものを見た。わかっているだろうな?」
ハテ?
どういう意味なのだろう?
今分かっているのは僕を踏んづけている治村さんの足と、その付け根部分を覆い隠すはずの小さな布切れがズレて……あっ!?
「うらぁっ!」
{ドゴッ!}
「うぐっ」
同時に意識を断ち切られた。
――――――――――
「おいキューちゃん!」
ここはお花畑。
広い土手にちょうちょが飛んで……
「おいっ!」
激しく揺れる体。
僕は反射的に声を上げた。
「うおっ!」
「キューちゃん目、覚めた?」
そこには寝ている僕を覗き込むように見ている三河君がいた。しかも顔をパンパンに腫らして。
「三河君の顔、モテすぎて超絶男前になってる」
「よし、正気に戻ったな」
嫌味を言ったつもりがスルー。皮肉も通じないのかこの男には。
「早くイケメンを起してさっさとこの場からズラかろう」
悪事を働いたチンピラ集団の会話に負けず劣らずの恥ずかしいセリフをサラリと口にする三河君が時々怖い。
(スベリ倒して場がシラケるのではとか思わないのだろうか? 彼の辞書には恐怖の二文字が抜け落ちている?)
などとくだらない考えで脳みそがフル回転したまま、三河君と一緒に千賀君の頬や頭を叩いたり殴ったりして起こす。勿論グーで。
「はっ! こ、ここはっ!?」
「ぷぷ」
僕と同じ様な状態で目を覚ます千賀君に少しだけ吹き出してしまった。しかしヤツ……トラブラー三河んは一味違う。夢うつつな千賀君の腕を掴んで引き起こすと、
{パッチーンッ!}
トドメの一撃と言わんばかりの強烈な張り手をお見舞いした。これに何の意味が?
「な、なんだよ三河!?」
「完全に目が覚めただろイケメン? まぁこれは僕の八つ当たりの一つでもあるんだけどね」
何の八つ当たりなんだろうと疑問に思いつつ、ふと辺りを見回した。そこで僕は人生始まって以来の衝撃な光景を目撃することとなるのであった。
マ、マジかいみかわん?
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