第九十五歩


 「このウジ虫以下の下等動物が!」


 僕は不条理な暴力を受けたうえに組織の組長さえも縮み上がるだろう罵声を浴びせられ続けていた。

 治村さんから……。


 「大丈夫熱田君?」


 そのおかげで推しの笹島さんから介抱されるといったご褒美を頂いている最中なのである。

 しかもペラッペラなTシャツを着ただけのほぼ半裸状態な彼女からだ!

 飴と鞭とはよく言ったものだ。


 「芽衣ちゃん、もうそれぐらいにしてあげたら? いくら海道君と新瑞さんが付き合い始めたからって…‥」


 そうなのである。

 今や二人の仲は治村さんをはじめとしたこの部屋へ宿泊している伊良湖委員長、そしてマイハニー笹島さんの知るところとなっている。なぜならあのバカ(三河君)が昨晩酔った勢いで彼女達の部屋へと乱入して全てをぶっちゃけてしまったからだ。


 鍵がかかっているからそれは無理だろうだと?


 普通ならばそう考えるだろう。

 しかしあのうつけ(三河君)が持っている呪いのブラックカードがここでもモノを言ったのだ! 

 店を出た後、海道君と新瑞さんにはイチャイチャ時間が必要だからと部屋へ帰らせ、一人ではふらつくから僕と千賀君に肩を貸り、


 「ちょっとフロントへ行って……」


 こうしてフラフラながらもホテルフロントに辿り着くと、あのカードを片手に従業員をそそのかし(ゆすり)、あろうことか彼女達の部屋の鍵を開けさせたのだ!


 防犯上ありえないだって?


 僕もそう思った。

 しかしあのカードが持っている効力は僕の考えうる遥か彼方を行ったのである!

 正直僕も欲しい!

 同時に怯えたホテルマンの顔が僕の記憶領域へと焼き付けられた。


 深夜だったこともあり、彼女達三人は既に眠っていた。

 驚くことに全員下着姿で!

 開けた布団から覗かせる肢体のエロいことエロいこと!

 

 その後はうろ覚えなのだが、確か酔った三河君の声により彼女達は直ぐ目を覚ましたはず。そしてひと悶着あった後に僕は治村さんの飛び膝蹴りで早々眠らされてしまったと思う。

 記憶が曖昧なのはきっと脳へのダメージが激しいからではないだろうか。つまり、それ程までに激しい衝撃だったのだ!


 そして再び叩き起こされると、延々デコピンをやられ、その一撃ごと過去の記憶が一つ、また一つと消えて行った。それでも彼女達の下着姿は決して記憶から消去される事はないだろう。たとえ家族との記憶を失ってもだ!

 

 ちなみに今彼女達は下着姿の上にTシャツを着ただけのセクシーな姿となっている。僕が失神していた間に相当慌てて取り繕ったのだろう。動くたびにチラリと見える下着がまたなんとも……。


 え?

 千賀君はどうしているかって?


 笹島さんの下着姿を目の当たりにしての嬉しさから失神してしまったのを覚えている。そして僕が再び目を覚ました後、ちょうどいいと言わんばかりに治村さんが追加締め落とし攻撃をし、隣で今尚失神継続中の状態となっている。

 彼に比べれば、あられもない姿の女性陣を現在進行形で見られているだけ僕は幸せなのかも。先程も述べたが、例えそれにより理不尽な暴力を受けたとしてもだ!


 「チッ! やさしい伊歩に感謝するんだね熱田!」


 僕とて決して許されたわけではない。

 現に今、反省の意味も込めて正座を強要されている。


 え?

 肝心のはなにをしているかって?

 それは……


 「それにしても……ちょっとコイツどうしよう?」


 「そうですねぇ。こんな状況を他の誰かに見られたら……」


 その状況を拉致られている僕はガッチリ見ているワケなのですが?

 ハァ。


 実は彼、治村さんのベッドで爆睡真っ只中なのである。

 突入時のドサクサで意味の分からない彼女達、特に治村さんの攻撃をヒラヒラ避けたと思ったらそのままベッドインし、大イビキをかき始めたのだ。しかも直前に服を脱ぎ棄て全裸となり、幸いにもこの行動が男慣れしていない治村さんからの追加攻撃を一切許さないシールドとなった模様。本当に偶然か?

 そしてこの後ターゲットが僕へと移った。


 「べ、別に私は興味ないけど、こ、この際三河んで男ってやつを研究しちゃおうかな?」


 ワザとらしい。

 興味アリアリですな。


 「ん? なんか言ったか熱田?」


 「!」


 超能力者か!

 本当にびっくりした!


 「ちょ、ちょっと芽衣ちゃん……」


 「いいじゃん! 伊歩も美咲っちも興味あるんでしょー?」


 頬を赤く染めて視線を逸らす二人。なぜなら治村さんが指さしている場所は三河君の股間そのもの。


 「だいたいさぁ、男ってやつは……」


 治村さんが三河君の寝顔を見る為に自分の顔を近づけたその時!

 

 「きゃっ!」


 「あっ!」

 「あぁっ!」

 「えっ!?」


 油断して近づいた治村さんの首へ両腕を回す三河君。寝ぼけているのだろうか?

 しかしその動きは三角コーナーへと湧くコバエの発生速度よりも速く、彼女は避ける間も抵抗する術もないまま引き寄せられた。そして次の瞬間、レスリング選手も驚くテクニックでグニっと体を捩じられた治村さんはなす術もなくベッドへ寝かされてしまった。


 「ちょぅ! みか……」


 格闘技術がマスターレベルだと噂される治村さんだったが、三河君の一連の行動で一切動くことも許されない完全な寝技を決められてしまったようだ。

 そして……


 「!」


 「!」

 「!」

 「!」


 奥義キス攻撃であのうるさい治村さんを完全に黙らせてしまった。

 マジか!


 こうして僕は痺れて動かない足以外にも立てない理由が一つ増えたのであった。

 

 お願いだから静まってくれよ僕ってば!


 


 


 

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