第九十歩
「キューちゃん様とイケメン様ですね? お待ちしておりました」
強面の男性は僕達の前で立ち止まるとそう口にした。
「へっ!?」
「とあるお方からお二人の面倒を見るようにと言付かっております」
とあるお方だと?
僕と千賀君をキューちゃんイケメンと呼ぶのは三河君以外ありえない。しかし彼が”とあるお方”などと呼ばれるのにも聊か違和感を覚える。
しかもこのような場所でお世話って、一体全体なにをされるやら。
「こちらへどうぞ」
とはいえ、見た目”組織の一員”の彼に逆らうのは宜しくないと僕達二人は黙って従うのであった。
「ここからは私が御案内致します」
構成員らしき者の後について玄関を跨ぎ、屋内へ入ると直ぐに女性から声を掛けられる僕と千賀君。
「!」
細身で美しいお姉さんと言えばいいのだろうか。化粧のせいもあってか、普段見慣れている同級生の女子とは大凡かけ離れている造られた美がそこにある。
(三河君の知っている作製さんや新罠さんにはこのような印象を受けないんだなこれが。彼女達はナチュラルビューティーで間違いないと思う)
ふとトヨカワ自動車の二大美女が頭をよぎるも、それ以上に比べようもない大きな違いがある。それは彼女の恰好(コスチューム?)である。
「ぺ、ペラッペラじゃないかっ!?」
僕と違い、思っていることをすぐ口にする千賀君。同時に前かがみとなるパフォーマンスを披露。なんたる正直者か。
「ふふ、お気に召しまして?」
シースルーの素材を用いたヒラヒラとするワンピースは下着モロ見えで、思春期ど真ん中となる僕達にとって直視するのが難しいほど。千賀君に限らず、僕とて悲しいかな否応なく体の一部が反応してしまう。
「ありがとう、後は任せて」
チリ毛の男は痴女にそう言われると、再び屋外へと戻って行った。
そして彼女に促されて後を付いて行くと、入って最初にあたる小さな部屋へと通される。
「ここで少し待っててね」
四畳半ほどだろうか?
室内ど真ん中には大理石の低くて小さなテーブルがあり、豪華なソファーがその周りを囲んでいる。
建物を外から見ただけでは想像できない小部屋がここには存在した。
「…………」
内装とバランスの取れていない応接間セットらしきソファーに腰掛ける僕と千賀君。これまでの様子から迂闊な事を口走ると物凄くヤバイ事態になるのは間違いないと判断した結果、一言も喋らない状況へ陥ってしまった。
よそよそしい態度で落ち着きのない僕達を気遣ってか、先程の女性がお茶らしき飲み物をテーブルへ置こうとしたその瞬間、事件は起きた。
「用意しているからこれでも飲んでもう少しまっててね……あっ!」
{パシャッ}
事もあろうに得体の知れない液体が僕と千賀君の顔を直撃!
その軌道は不自然極まりないが今はそれどころではない!
超熱々なのだ!
ぎゃあっ!
「あつあつあつあつあつうぅぅぅぅーっ!」
「あらあらあらーっ! た、大変たいへーんっ! ささ、このおしぼりで顔を拭いてっ!」
直接握らされたホッカホカのおしぼりを顔へとあて、皮膚が擦り切れて無くなるぐらいに強くこする。とにかく今はこの熱さを紛らわしたい。
ところが!
「ぎゃあぁぁぁっ!」
同じ行動を取っていたであろう千賀君が建物内に木霊するほど大きな悲鳴を上げた!
そして考える時間もないまま僕も同じように叫び声をあげる!
「うぎゃあぁぁぁぁぁっ! 痛い痛い痛いっ!」
そうなのだ!
先ほどまでは熱かったのが、今度は顔面に激痛が走ったのである!
粘膜を集中攻撃された僕は、目が開けられなくなってしまった!
この時唐辛子の香りが鼻先をかすめたが、きっと勘違いだろう。
「仕方がないわ。二人とも早くこっちへ来てっ! そのままお部屋へとご案内して!」
「はーい!」
「わかったわー!」
何がどう仕方がないのか意味不明のまま、彼女とは別の声で女性が二人返事したのだけは分かった。
「あなたキューちゃんだっけ? 私の身体を後ろからグッと抱きしめて」
「は、はい!」
ヒリヒリして目が開けられない僕は、女性に言われるがまま行動。
「そのままピッタリ私についてきてね」
本来ならば女性の身体に密着できてうれしいハズだが、顔面激痛でそれどころではない。
(アバラが出ているってことは相当細身だな? この分だとチッパイで……)
しかしそこは好奇心旺盛な男の子、このような状況でも体形チェックは欠かさないエロ男爵熱田久二ここにありだ。
「あら、早速胸に手を伸ばすだなんて……気が早いわね」
「!」
怒られるどころか容認のお言葉を頂いたぞ?
もしかしてこれは!?
前略ご両親、僕は大人の階段を上るかもです。草々
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