第八十六歩
「君達はコレでいい?」
赤いドレスを着た美しいお姉さんは僕と千賀君の前へ各々瓶に入ったコーラと氷入りのグラスをコトリと柔らかく置いた。
「アナタ達を別の席に座らせるだなんて、彼なりに気を使ったのね」
そうなのだ。
彼女の言う通り、三河君は僕達が知らないおじ様連中を交えたあのグループとは別のテーブルをあてがったのだ。鈴丹会長や南さんと仲良くやり取りしているのを見るに、他の連中もきっと経済界の大物なのだろう。
そして宝石さんも向こうのテーブルに座っているのだが、その肩身の狭い事狭い事。見ているこちらがストレスで胃をやられるのではと思う程。
「君達は高校生なんだよね?」
アールのついた大きなソファには、奥から順に背中のガバッと開いた吸い付きたくなるような白い肌を覗かせる赤いドレスの女性A、素朴な少年の僕、胸元から両肩まで剥き出しのエロさ満開な青いドレスの女性B、チンピラ予備軍の千賀君、更には童貞連中の股間を刺激させまくるピタッと体のラインを強調したタイトな緑色のドレスを着た女性Cが腰を下ろした。
「いえ、あの……」
赤いドレスの女性はストレートに質問をぶつけてきた。
「こんな場所では答えにくいでしょうね。でも向こうの彼が”二人は童貞で女性慣れしてない純朴な高校生だからお姉さんたちがリードしてあげてね”って言ってたわよ?」
おい三河、ぶっ殺すぞ?
「”だからお酒は厳禁ね”だってさ。自分の飲んでいるのはなんだろうねって話よね」
「あ、あのお姉さ……」
言葉を発しようとした瞬間、赤いドレスの女性は僕の唇を自らの人差し指で押さえるとこう言った。
「私の名前はとよねって言うの。お姉さんなんて呼び方はなんだかしらけるから名前で呼んでね」
すると続けざまに青いドレスを着た女性も自らをアピール。
「私はしだらよ。変わった名前だから憶えやすいでしょ?」
遅れてなるものかと今度は緑色がこう言った。
「あさひよ。よろしくね」
タッチ多めで男を勘違いさせる可愛い系の魔術師とよねさん。
色気ムンムンで男を虜にさせるキレイ系の淫魔しだらさん。
体のラインを露わにして男をその気にさせるグラドル系のエロテロリストあさひさん。
(女性にも色々なタイプがあるんだなぁ)
そして僕と千賀君は緊張からか、面白くもなんともない自己紹介でこの場をしらけさせた。
「アハハハ! キューちゃんにイケメン君ってソレなによーもう!」
「ホントホント! イケメン君なんて髪の毛染めてイケメン風なだけじゃないのよー!」
「あ、あさひちゃんそれは言っちゃダメよ! こう見えてもイケメン君も立派なお客様なんだからねー!」
と思ったが、意外や意外、千賀君のあだ名であるイケメンにガッツリ食らいついたのだった。
「でもさ、君達いったい何者なの? 彼もそうだけれど、あそこのおじ様方とお知り合いなんでしょう? ママ直々お相手するだなんて相当よね。政治家のお偉いさま方の前でだってなかなかあんな姿を見せないわよ?」
政治家か……。僕は三河君が総理大臣と友人でも驚かないぞ。いや、やっぱり驚くかな。
「いやぁ、俺等もイマイチ三河がワカンねーっすよ。でも話してみるとやっぱり普通の高校生かな?」
「なによーそれー! クラスメイトなんでしょー? 同級生なんでしょー?」
千賀君の言う通り、僕も今一つ三河君って男を理解しかねている。一つ言えるとすれば、常人を遥かに凌駕した人脈を持っているのは間違いない。
「ね、ね、キューちゃん、黙ってないで君もなにか話して」
僕の腕を掴んで青いドレスの布越しに胸を押し付けるしだらさん。その大胆に開いた胸元の隙間からチラリとピンク色の物体が顔を覗かせたがこの際黙っておくとしよう。
今宵はサイコーですぞ三河殿っ!
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