第八十二歩
あの心地悪い空気から数時間後、僕達はホテルへと戻っていた。
全員参加の夕食時間が迫る中、いつまでも会長とくっちゃべっている三河君を応接室から半ば強引に連れ出すと、帰社して早々化粧直しをしている宇頓さんにお願いしてスズタンタクシーをチャーターし、彼女のレーシーなドライビングでブッ飛ばすこと十数分、なんとか時間ギリギリ間に合った。
僕達は一旦部屋へ戻ると、余計な物(レポートなど)を部屋へ置き、すぐさまレストランへと向かう準備をする。この時僕のスマホがブルいまくってたが敢えてスルー。チラリと画面を見たのだが、発信元が治村さんだったから間違いなく無視が正解だろう。
「ところでさ、ご飯食べた後みんな僕に付き合ってほしいんだけれどいいかな?」
三河君が珍しく真面目な顔をする。こういう時は決まってロクな事がないが、その反面なにかやらかすとの期待もあるから答えは勿論イエス一択のみ。
「オッケー!」
千賀君も僕と同じ考えだったのか二人同時にそう答えた。
―― レストランにて ――
「あんたら私を除け者にしてどこ行ってたのよ!」
始まった。
別に除け者にしたのは治村さんだけではないが、運が無かったとでも言う他はない。
「べつにいいだろ? 俺はこうしてウマいもん食えるだけで全部許せちゃうぞ!」
万年能天気な海道君に助けられる。彼のおかげで治村さんの怒りも薄らいだように見える。
このレストランでは四人掛けテーブルを二組使用し、隣同士でくっつけ八人掛けにした(無許可で)。
僕達の班は6人だから四人掛けでは座れない故の苦肉の策だ。
それよりも大変だったのはクラスが違うハズの海道君や新瑞さんが同席したせいで女性陣は大荒れだったのだ。とは言っても他人の目があるせいで終始嫁と姑に小姑を巻き込んでの嫌味合戦的な争いとなり、その矛先が自分に向かない様ブルって食事をしていたから味をほとんど覚えていないぐらいの被害で僕自身は済んだのだが。
そして食事を終える寸前でようやく鎮火したかに見えた争いの中へ、またしてもあの男が油を注いだのだ!
「そう言えば東はあの
「!」
出ました爆弾発言!
分かり切った事だが、この言葉に治村さんと(なぜか)新瑞さんが大噴火!
瞬時にレストランが地獄絵図となったのは言うに及ばないであろう。
―― そして今 ――
「東には悪いけど、あのドサクサを利用して上手い事外出出来たな。ヤツ等が気付いた頃には僕達男子チームは夜の歓楽街で社会見学真っ只中だろうし、だからと言ってどうする事も出来ないハズ」
この男、全部計算していたのか。改めて敵に回してはいけないと思い知らされる。
「ところでよ三河、さっきの話ってマジ?」
「東の? あー、あれ嘘だよ。実際男女混合で海行ったのは確かだけれど、別にアイツの女って訳ではないからなぁ。言うなれば永遠の片思いの君って感じ?」
話の内容はイマイチ理解できないが、三河君に秘密を握られては絶対ダメだってのは彼の語りからハッキリ分かった。ゆすられる危険性とバラされる危機感に永遠と怯えるハメとなるだろう。
こうしてホテルの玄関前へ抜け出した僕達三人は、タクシーに乗って夜の繁華街へと繰り出すのであった。
それにしても同情するよね海道君ってば!
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