第七十六歩


 事前ミーティングではこの後の予定として昼食、そして博物館めぐりと決まった。当初の予定より人数が減ったものの、三河君のことだから予定通り強引に事を運ぶのだろう。

 

 「んじゃお昼ご飯を食べに行くとしますか。あと、何度も言うけれど、僕あまりお金持ってないんで支払いは頼んだよチミ達」


 こうして僕達四人はエレベーターに乗ると、一階へ向かうのであった。



 ―― 1階ロビーにて ――


 「やっほーお待たせ美咲っち!」


 エレベーターを降りると、玄関とは逆方向のロビーへ抜かうリーダー三河君。どうやらここが伊良湖委員長との待ち合わせ場所だったようだ。


 「三河君の言う通りにしたのだけれど、まさかあんな事態を引き起こすとは」


 委員長はどう言った指令を受けたのだろうか。その辺りをもっと詳しく……。


 「治村さんには少し可哀そうなことをしたかも。あれほどまでにドンピシャなタイミングで来るだなんて思ってなかったから」


 おそるべし三河安成。女殺しの技術と悪だくみでは一生敵わないだろう。それにしても可哀そうな海道君。僕も三河君に対する友達と定義される現在の距離をもう一度測り直した方がいいかも。


 「私が部屋を出るとき治村さんシャワー浴びるって言ってたから、きっと服脱いでたと思うの。それを考えると……」


 「大丈夫だよ美咲っち。それは全部僕のせいにすればいいからね。それにきっとメーのやつもそこまで怒ってないと思うよー」


 「そうかなぁ?」


 「そうだよ。でなければ今頃僕はこの世にいないと思うし」


 さらりと怖いことを口にする三河君。これが強ち冗談と受け取れないのが恐ろしい、なんにせよ、とばっちりはご勘弁願いたいものだ。


 「なんだよライブ? 何か言いたげだね?」


 「三河君って私より芽衣ちゃんを理解している気がする。ちょっとだけジェラシーかも」


 笹島さんから嫉妬との衝撃発言が!

 僕は三河君にスーパーロイヤルジェラシーだっ!

 近いうちにぶっ殺すからな三河!


 「そう? 僕はそこまでメーのこと詳しくないし、ライブや美咲っちのことだってこの目に見えるオッパイの大きさぐらいしか分かんないよ?」


 「!」


 あっ!

 やりやがったクソ三河!

 こともあろうに伊良湖委員長とマイエンジェルのオッパ……胸を揉みやがった!


 「す、すげーなオイ!?」


 陽キャで軽薄そうな千賀君ですらドン引きする三河君の行動。これは流石に女性陣から怒りの鉄拳が……。


 「…………」


 伊良湖委員長とマイハニーは両腕を交差させ、胸を隠しつつ赤面したそのお顔を下へと向ける。その表情から伝わる感情はどう見ても怒りではなく照れ。


 「あ、ゴメンゴメン、ついいつものクセで……」


 「い、いつものクセ!?」


 直後、三河君は笹島さんと伊良湖委員長の耳元でなにかを囁くようにコソコソ話をする。同時に二人は赤ら顔への変化を加速させ、その色は熟れた桃から茹でたてのカニへと様変わり。しかもモジモジしながら小さく何度も頷いた。


 「う、うん、大丈夫」


 「ぬ、抜け駆けは無しでお願いしますね笹島さん」


 二人が悪魔とどのような契約を交わしたのかは一切謎。しかし一つだけ分かったことがある。恥ずかしさ目一杯の中で時折浮かべる彼女達の幸せそうな笑みを見るに、それは三河君しか成し得ないなにかの約束なのだろうことが。


 悔しいけど僕には彼女達にあのような顔をさせる術はない。ここでも垣間見える三河君の凄さに、同じ男として自信の喪失感が半端ない。


 「ところでキューちゃん、ユーの股間のモンキーバナナを何とかしなきゃ出かけられないから早く落ち着かせてね」


 笹島さんの胸を揉む姿を自分にダブらせる妄想で知らないうちに成長していたマイジュニア。それを全員の前で指摘されるといった打首獄門よりも厳しい仕打ちで、少しとはいえ先程抱いた三河君への尊敬の念を怨念へと変化させるのがとても容易かったのは言うまでもない。


 うおぉぉぉっ!

 殺すなら一思いでやれや三河!

 

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