第七十五歩
「あんだらあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」
世界の理を無に帰す破壊力と同レベル帯域の怒鳴り声が階全体を覆う。僕達は耳を塞ぐと同時にその眼も疑った。
「そもそもお前たちは違うクラスじゃないのか!」
廊下に正座させられている三人の生徒とそれを叱っているであろう教師の図。これが現在僕達の瞳に写っている摩訶不思議な状況。
「あれは私達の部屋じゃないの? 正座してるの芽衣ちゃんに海道君と……新瑞さん?」
「プククク」
邪悪な悪魔とてそれほどまでに醜悪ではないであろう悍ましい笑みを浮かべる三河君。瞬間的に彼の仕業だと確信。
「なんだあれ? あいつらどうして怒られてんの?」
「さっきライブを呼ぶとき細工を頼んだんだよ」
それを聞いた笹島さんは何かを思い出したようだ。
「あの時電話で鍵がかからないようドアに何か挟んどいてって……」
「そう。んであの後すぐ東に電話したじゃん。僕の悲鳴付きで」
言われてみれば確かにそのような電話をしていた記憶がある。
しかも部屋番号を添えて……。
「ああ言っとけば僕のピンチだと思って駆けつけるのは間違いないし、いくらアホでも部屋を間違えるハズも無かろうと」
え?
単なる悪戯?
それにしては酷い結果じゃ?
「メーの着衣の乱れから想像するに、東のヤツ彼女の着替え中に突入したな?」
「あっ! 本当だ! きっと慌てて服を着たんでしょうね」
確かに治村さんの服装が少し崩れているかにも見えるが、言われなければ気付かないレベルだと思う。
「ありゃ下着姿見られたな。でなきゃ東の顔があんなんになるハズないし」
三河君の言葉に僕は改めて海道君の顔へと目を向けた。そこにはなんと、とれたてのジャガイモをも上回る表面凸凹の顔面が! ヒェッ!
「天狗も一緒に東を殴ってたみたいだなー。拳に血がついてるし」
ニヤニヤしながら状況を推理する三河君。
いや、全部君のせいだと。
「それにしてもどうして天狗が一緒なんだろう? 計画が台無しじゃんか」
計画?
罠の間違いじゃないのだろうか?
「メーと二人っきりにすれば東とてそれなりの行動をするかと」
二人をくっつけようとしてるのだろうか?
羨ま……お節介も甚だしい!
「でも伊良湖さんも一緒よ?」
同じ班だからそりゃそうだ。三河君にしては珍しくボケてるな。
「ノンノンノン! 美咲っちは共犯だから別のクラスメイトの部屋に行ってたと思うよ」
伊良湖委員長が共犯だって?
いつの間に二人はそんな計画をしてたのだろうか?
もしかして二人はできてる?
つか、頼むから僕と笹島さんの為にもできていてくれ!
「言っとくけど、僕と美咲っちは只の友達だから。この計画もホテルで生徒が説明うけてるときに立てたものだから」
超能力者か!
どうして僕の考えが分かるのだ?
偶然にしては核心突きすぎと違う?
「それはそうとして、天狗が東についてくるってのは計算外だったなぁ。また仕切り直しだ」
三河君にしても新瑞さんの存在はイレギュラーだったと見える。その証拠にギリリと歯ぎしりをしている姿の彼がそこにいるのだ。少しだけ胸がスッとした。
「まぁ、あれはあれでオッケーとポジティブに考えるとするか。きっとメーと同じで天狗も東との距離を一歩縮めることができたのだろうし」
この男、もしかして恋のキューピットにでもなったつもりか?
それならそれで僕と笹島さんに矢を向けろや!
この時思った。僕は三河君によってどんどんガサツになって行くと。それはもちろん裏の顔だけで、表の顔は子羊熱田久二のままなのは言うまでもない。
「よし、んじゃあいつ等は放っておいて、僕達だけで行動するとしよう」
面倒な出来事は即切り落とす妖刀安成。その呪われた刃で僕も切り落とされないよう気を付けなければ。
「でもキューちゃんはその股間の小刀を早く鞘に納めなきゃだね!」
この瞬間から、薄ら笑いを浮かべる千賀君と、頬を染めて俯く笹島さんの姿が、この先における僕の人生において永遠トラウマとなった。
うおぉぉぉっ! 今日こそそのお命頂戴するぞ三河殿っ!
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