第六十八歩


 「二度と手を煩わせるなっ!」


 ロビーからホテル内催し物祭場へと移動して引率教師の第一声がこれ。

 生徒全員集合した後、今回の旅行におけるルールを説明すると言われたものの、結局は注意、いや折檻が目的だったようだ。

 とはいえ、彼の視線は海道君、新瑞さん、治村さんの三人へと交互にピントを合わせていた訳なのだが……。


 「あいつらバカだねキューちゃん。目立ちすぎなんだよまったく」


 いや、完全に三河君が悪いんだが?

 つか、なぜに君は説教されるメンバーの中へ入っていないのだ?

 回避率120%のアサシンかなにかか?


 などと心の中で三河君をディスっていると、気付けば引率教師の怒り火山は最早噴火待ったなし状態へ。

 そこへ我等7組の担任が空気も読めずに彼の説教を遮るなどと言った火に油を注ぐ愚かな行為をやらかした。

 

 「先生、お話の所ちょっといいですか?」


誰もが爆発すると思った。だが、そこは生徒を任された引率教師、なんとか理性で怒りを押さえつける。

 それを知ってか知らずか、担任は引率教師の耳元でなにやら呟き始めた。


 {ヒソヒソゴニョゴニョ……}


 誰が見ても怪しい教師二名の会話。

 桔梗屋と悪代官の悪だくみとでも言ったところか。

 そして終わったと思うや否や、引率教師はこちらを向くとこう言った。


 「おい、三河に熱田、それに千賀の三人はちょっとこちらへ来い」


 唐突な呼び出しに焦る三名……いや、千賀君と僕。


 「実はな、他の生徒の手前、あまり大声で言えないのだが、ホテル側からお前たち三人にはスイートルームが提供されるそうなのだ。これはどういう意味なのだ?」


 マジですか!?

 齢16歳にしてもうスイートルームを経験するのですか?

 イヤッホウッ!


 「あー、それきっとホテル側が気を使ったんだと思いますよ。僕の知り合いがこのホテル関係者と仲がいいから……」


 なにか引っかかる言い方をする三河君だが、別に間違いではないな。正確にはホテルの偉い人と個人的な知り合いだったようだけれど。


 「そうだ先生! スイートルームなんて僕達高校生には贅沢過ぎるから教師の方々で利用されては? 僕達は先生の泊まる予定だった部屋で結構です」


 あっ!

 余計な事を!

 ぶっ殺すぞ三河!


 「そ、そうか? し、仕方がないなぁ! まぁ、どうしてもって言うのなら変わってやらないでもないがな! ワハハハ!」


 こうしてクレーム客を見事に完封するような二枚舌の持ち主である三河君と部屋を交換した引率の先生。この先一生経験する事もないであろうビップ待遇確定事項に、仁王様よりも恐ろしかった表情の彼は恵比須様を遥かに凌駕する超絶ご満悦顔へと180度変化したのであった。まんまと三河君の策略に嵌った格好となる。

 

 それにしてもグリーン車といい有名ホテルのスイートルームといい、大きな魚を逃がした感がなんとも腑に落ちない僕は異端なのだろうか?


 そしてこの後、今回の旅行におけるルール説明を受けると、一同早々に割り当てられた部屋へ向かうのであった。


 ※基本的ルール


 ・滞在時は各自自由行動

 ・朝食及び夕食は必ず当ホテルで

 ・この三日間での行動をレポートにまとめて最終日までに提出

 ・赤楚見高校生としての品位ある行動を常に心がける

 ・行動は必ず3名以上の男女混合で行う

 ・夕方6時までにはホテルへ戻って夕食を取るように

 ・夜7時の点呼時、居ない生徒は厳しく処罰


 他にも細かなルールが多々あるも、大まかには生徒の信用を前提に決められていたと思う。

 

 そもそもに赤楚見高校は素行の悪い生徒など存在しない……いや訂正、女癖の悪い生徒は一部だが存在する。


 君・の・こ・と・だ・よ・三・河・君・っ・!

 

 

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