第六十六歩
「話が長いんだよ三河は!」
死臭漂う年配集団から解放され、我等ボンクラチームへと合流を果たした三河君。直後、千賀君の一撃が彼を襲う!
とは言うモノの、あれから時間的には少々経過していた。
「ゴメンゴメン! いやぁ、あの人には大きな借りがあったからつい」
三河君から話を聞くに、どうやら先程の南さんは、中部地方で幅を利かせるあの巨大企業”ゲログループ”幹部なのだそうだ。三河君が知り合った時はまだ地方ホテルの総支配人だったそうなのだが、出来る人間故、出世したのだろうとのこと。
そしてなんとこの”リバアスグループ”に現在巨額出資しているそうだ。表面的には提携の形をとっているものの、実質実権を握っているようだと彼は口にする。
「あそこの親分は腹黒いから先行投資だろうね。さっきの駅名が妙に引っかかったのはこの事を暗示していたんだよ」
これ以降、暫く難しい話がダラダラ続くも、僕の鼓膜は緊急シャットダウンを実行し脳へ侵入するほぼ全ての会話を遮った。
「そこで皆さん、朗報です! 先程のチイちゃんから夏休みに海岸沿いホテルへご招待いただきました! ハイ拍手ぅーっ!」
「マジか三河! うおぉぉぉっ!」
旅行中に次の旅行が決まるって、まぁ別にいいんだけどね。
「他の皆が聞いたら喜ぶぞきっと! ……それはそうと俺達どうやって集合場所へ行くんだ? で、そもそも他の連中はどこ行った?」
「あー、あいつ等はホテル側が気を使って先に送って行ったみたいだねー。僕達はタクシー?」
タクシーだと?
誰が代金を払うのだろうか?
勿論その役目は三河君なのだろうな?
「何度も言うけど僕お金無いから。そこはホラ、イケメンかキューちゃんヨロシク」
フザケンナ!
毎度毎度引っ掻き回してこの男は!
今日という今日は一言言ってやる!
「あー、だったら俺が出すわー。これまで三河のおかげで色々良い目見させてもらっているからな」
「おー、いいねイケメン! 苦しゅうないぞ」
恥ずかしい!
自分のことしか考えていない自分が情けない!
僕は振り上げた拳を直ぐに下げた。当たり前だが妄想内での拳をだけれど。
千賀君の一言で目から鱗。トラブル必須とはいえ、これまでどれだけ三河君に助けられたのだろう。そもそも彼がいなければ今回の旅行だってボッチだっただろうに。少量の金銭問題で三河君にガツンと言おうだなどとなんたる上から目線。
僕は小雨後にできた水たまりより深く反省した。
「で、玄関前で待ってればいいのか三河?」
「うん。そうすれば係りの者が案内するってなんちゃらっておっさんが言ってた」
おっさんて。先程南さんから紹介されたであろう人物の名前すら憶えていないだなんてこの男は。
「ちなみにそのおっさんて誰だ?」
「あー、ブチョーとかなんとか言ってたような?」
グループの部長って事は相当な立場だろうに。その彼の名前を記憶に留めていないって、三河君にとってはそれ程重要な人物に値しないとのことなのだろうか?
まぁ、実社会の構造に詳しくない僕がいくら考えても仕方のない話だろうからあまり気にしないで行こう。
そして玄関で待つ事数分、一台の車が僕達の前へと停車。それはこのホテルが所有する結婚式用なのであろう巨大な外国製オープンカーで、決してタクシーなどではなかった。
「マジか! スゲーぞみんな!」
こうしてテンション爆上げ大燥ぎする千賀君とは別に、僕と三河君は恥ずかしさから顔面真っ赤にして俯いたまま晒し者の如く集合場所まで運ばれていくのであった。
本当に勘弁してよリバアスホテルってば!
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