第六十三歩


 「フザケンナ! ここなら一つ手前の駅で降りればよかったじゃんか!」


 三河君が憤るのも無理はない。何故なら僕達も同じ意見だから。


 

 ホームを出て学校側から渡された地図を確認、どうやら集合場所は今回お世話となるホテルの玄関前。縮尺図のせいで直ぐ近くだと誤認、実際は急な上り坂を含む相当にハードな行程。一歩進むごとに口数も減り、やがては誰もが無言となった。


 ”堀川リバアスホテル”


 主要都市には必ずと言っていい程存在する元は外資系のホテルグループ。現在は我が国のなんちゃらって会社の傘下となっている模様。この超庶民である熱田久二でもこれぐらいは知っているぐらいに有名なシティホテルグループである。


 「ほ、本当よね。せめて送迎バスでもよこせっつーの」


 {ブロロロロ……}


 そんな治村さんの横を颯爽と走る一台のマイクロバス。横には”リバアスホテルズ”との派手なラッピングが。


 「あっ! 本当にバスあったんじゃないか!? マジフザケンナよ!?」


 「大声出すな! それでなくともアンタは暑苦しいんだから。それにホラ、もうすぐよ」


 あれれ?

 治村さんって確か海道君に好意的じゃなかったっけ?

 今の態度を見る限りとてもそうとは?


 「お前等仲いいな。本当に付き合っちゃいなよ」


 三河君は僕と全く逆の考えらしい。どこをどう見れば二人の仲がいいなどと思えるのか。


 「…………」


 「…………」


 それ以降、二人は一言も言葉を交わさなかった。なぜか頬を紅く染めて。


 こうして歩く事1時間余り、途中休憩を挟んでなんとかホテル玄関前へと到着。しかし様子が変だと直ぐに気付いた。


 「誰もいないじゃんか。ねぇキューちゃん、集合場所って本当にここで合ってんの?」


 「うーん、正直なところよくわかんない」


 三河君の問いに対し、期待外れな答えしか口に出せない僕を見て千賀君がこう言った。


 「俺がロビーで聞いてきてやるよ」


 さすがパリピ、他人とのコミュニケーションに臆することなく向かう。となれば自称人見知りのこの男も同じ行動をとるだろう。


 「待ちなよイケメン。そこはほら、男子全員で行くから」


 やはりな。

 間違いなくこの男は人見知りなどではないだろう。

 つか、コミュニケーションの化け物?


 「ちょっと女子は此処で待ってて。あと赤面茹蛸の東もここで待ってな! ……んじゃ行ってくるよ」


 こうして海道君を除いた僕達男子三人はホテル内へと足を踏み入れたのであった。


――――――――――――――――――――


 

 「いらっしゃいませ。本日はご宿泊でしょうか?」


 どこからどう見ても高校生の僕達に対し、丁寧な応接で迎えてくれるフロント従業員。僕は高級感ありありな雰囲気にのまれてただ黙って立ち尽くすのみ。しかしヤツは違った。


 「えっとぉー、俺達今日ここで泊まると思うんスけどぉー、どうすればいいんスか?」


 「ご、ご宿泊ってことで宜しいのですか?」


 恥ずかしい!

 どうすればいいか聞きたいのは寧ろ僕の方!

 本当に恥ずかしいからヤメテよ千賀君!


 「あー、ちょっとイケメン、代るよ。受付の人困ってるみたいだし」


 「お、おう。んじゃ交代な三河」


 先程のバカ三河君とはなんだか雰囲気が違う。少し大人びたような……もしかして二重人格?

 

 「僕達赤楚見高校生徒で本日このリバアスホテル集合と聞いて伺ったのですが……」


 「少々お待ちください」


 受付の人はカタカタとパソコンを打ち始め、それが終わると何処かへ電話をする。


 「あー、ハイ。そうですか。ではそちらへご送迎すれば宜しいので?」


 トラブル発生?

 電話の内容を盗み聞きするに、どうやら集合場所はここと違うようだ。


 「……ハイ、ではそのように」


 受付の人は電話を切ると、今度は僕達へ丁寧に説明を始めた。


 「お客様、本日はご利用ありがとうございます。今回赤楚見高校の方々がお泊りになるのは駅前にある”堀川リバアスホテル”でこの”高縄グランドリバアス”ではございません。お送り致しますので玄関前に停車中のバスへと御乗車ください」


 なんと間抜けな話だろうか。聞けばこの辺りには複数の”リバアスホテル”が存在するそうだ。中でもここはグレードが高い”グランドリバアス”とのこと。エグゼクティブとは程遠い僕達のような田舎臭がプンプン香る高校生はお呼びでないだろう。


 「ふーん、そうなんだ。まぁ送ってくれるなら別にいいけど。それと……」


 この後三河君の呟いた言葉のせいで大騒動へと発展するのであった。 

 

 マジかよ三河君ってば!?

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