第六十一歩
「ところで海道は誰狙ってんだ? まさか笹島さんじゃ……」
「安心しなよイケメン、東が狙ってんのはエビ……」
「わあぁぁぁぁぁっ! うわあぁぁぁぁぁぁ—―――――っ!」
車内自由席で行われる恋バナ会議、それはなにも女子だけの特権ではない。そして千賀君はまだ笹島さんを狙っていた。まったく諦めの悪い……。
「確かに最近の海道君はモテるよね。治村さんといい、新瑞さんといい」
「あの二人が俺に気があるだって? 冗談は三河の女関係だけにしろよな熱田」
稀に見る鈍感。この人はこの先も永遠に女心が理解できないのではなかろうか。まぁ僕もよく似たものだけれど、それでも客観的に見れば彼女達が海道君に恋心を抱いているのはなんとなく理解できる。
「バカだな東は。少なくとも天狗の性格からして嫌いなヤツとは一緒に行動しようだなどとは微塵にも思わないだろう?」
バカな三河君にしては鋭い。会ってそれ程時間を要してないにも関わらず、既に新瑞さんという女性を理解し始めているようだ。それにしてもあだ名は天狗確定なのね。三河君のことだから公衆の面前でも容赦なしにその名前を呼ぶだろうに……可哀そうな新瑞さん。
「俺は別にあいつ等を何とも思ってないぞ。普通の女友達って感じかな」
先程の三河君の様子を見るに、どうやら海道君には好きな女性がいるようだ。あのキモいニヤケ顔から想像するに、童貞喪失の相手はその人なのだろう。
「イケメンとキューちゃんはライブ狙いなんだろ? 邪魔しないからどんどん攻めなさい。つか、出来れば落としてくれた方が僕にとっては都合がいいのだけれど」
嫌味か!
誰がどう見たって笹島さんのターゲットは三河君だろうが!
ぶっ殺すぞ!
「それを三河が言う? ほら見ろ、千賀も熱田も黙っちゃったじゃないかよ」
「アハハハ! チャンスはきっとあるよ! それに僕からは絶対に行かないから安心しなよ!」
これまで三河君が女性を口説くシーンなど目にしなかった。彼の言う事に一理あるも如何せん信用するに値しないあの乱れた女性関係。甚だ疑問だが、一応心のどこかに留めておくとしよう。
「ところでこれからどこまで行くの?」
「!?」
開いた口が塞がらない! マジで言っているのか三河君!?
「お前頭膿んでるのか? そもそも今回の行事内容知ってる?」
「おいおい東よ、いくら僕だってそんなにパーじゃないぞ?」
結構パーだと思うけど、これは絶対に言っちゃダメなセリフ。いや人として。
「首都圏へ行くのは知ってるよ。僕が聞いてるのは降りる場所だよ」
「あー、それなら。お前のことだからマジで今回をただの旅行ぐらいにしか思っていないと思ったよ。因みに降りるのはゲーロウェイ駅だな」
「なに?」
「この先数年後に高速鉄道より早い超電導浮上式鉄道が走るってんで、そのために新たな駅が作られたのよ。それがゲーロウェイ駅ってなワケだ」
海道君にしては物知りだな。まさか鉄道マニアとか?
「いや、そんなのはどうでもいいのよ。僕が引っかかったのは駅名なのさ。なんだか嫌な予感がする」
妙なことを言い出す三河君。ゲーロウェイ駅の何が引っかかるのだろうか。
「ところで東って鉄っちゃんだったっけ? どうしてそんなに詳しいの?」
「ああ、それなら東海のねーちゃんが……いや、ニュースで散々やってたじゃんかよ! ア、アハ、アハハハハハ!」
急にシドロモドロとなる海道君。確かにニュースでやっていた気もするけど、普通そこまで気にするだろうか。たかが鉄道に。
「なるほどな」
「…………」
三河君は何かを悟ったように呟いた。それを聞いた海道君はこれ以降、一切この件に触れなくなってしまった。
この後一時的にはお通夜宛らとなったものの、そこはやっぱり男同士、すぐ元通りの宴会大騒ぎ状態へと逆戻り。そんな僕等を乗せた高速鉄道はひたすらゲーロウェイ駅を目指して突き進むのであった。
でも僕は知っている。
快適なはずの車内温度の中、海道君の額は拭っても拭っても汗が止まらなかったことを!
時々怖いよね三河君ってば。
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