第六十歩

 「あれ? なんで新瑞までいんの?」


 あれから僕達は店を後にし、他のメンバーとの合流を果たす。オマケの新瑞さんも一緒だった為、速攻指摘してくる治村さん。しかし……


 「ちょっと待って治村さん。今は彼女の事などどうでもいいのでは? 寧ろ海道君に担がれている三河君のほうが気になるのだけれど」


 流石に委員長は目の付け所が違う。既に笹島さんといった強力なライバルがいることで、今更平平凡凡の……いや、そこそこキレイな恋敵の一人や二人増えようがお構い無しといったところか。


 「言われてみれば確かに。おい熱田、説明しな」


 「えっ!?」


 まさか自分に振られるだなどと思ってもみなかった僕は、誤魔化すなどとの小細工もまったく思い浮かばず、ついついありのままを口にしてしまった。


 「いや、海道君が童貞じゃない……あっ!」


 {ドゴッ!}

 何かが僕の視界を遮った次の瞬間、目の前が真っ暗になった。


―――――――――――――――――――――――――――――――――


 {タタン……タタンタタン……}


 定期的な振動で心地よく全身を揺さぶられる。


 「う、うーん……」


 なんとなく目が覚めるも、今自分の置かれている状況が理解できない。まだ思考が停止しているようだ。どうやら僕は眠っていたらしい。

 

 「お、目が覚めたかいキューちゃん。それにしてもお互い災難だったねぇ」


 「お前だって悪いんだぞ! あんな事口走るからつい……」


 「チョー災難だったよなー。にしてもグーパン一発で失神だなんて軟弱過ぎネ?」


 そこには三河君だけではなく、海道君や千賀君の姿も。そう、ここは都市部へと向かう高速鉄道の中。どうやら眠っている間に車内へと連れられたらしい。


 「あれ?」


 しかしここで疑問が。


 「電車に乗っているのって僕達だけ?」


 そう、女性陣が誰一人ここにはいないのだ。二人掛けの座席をクルリと反転して四座席、座っているのは僕達男子四人のみ。非常に不自然極まりない。


 「女子のことか熱田。実はな……」


 海道君が言うには、どうやら三河君はからで楽しんでらっしゃい的なグリーン車のチケットを四枚プレゼントされたのだそうだ。僕を含めた一般ピープルな他の面々は座席如きに倍以上の金額を払う余裕などこれっポッチも持ち合わせておらず、もちろん自由席での旅路となる予定であった。だが、例の騒ぎで噴火レベルマックスとなった治村さんを抑えるにはそのプレミアムチケットを犠牲にする他なかったのだそうだ。


 「嬉しそうだったよねメーは。グリーン車なんて初めて乗るって大喜びだったよ」


 「三河君はそれでよかったのかい? せっかくお姉さま方がら貰ったのに」


 「いいんだよ僕は楽しければ。別に指定席でなくとも野郎同士でバカ騒ぎできるなら」


 一瞬とは言え大人の風格を漂わせる三河君の言動にカッコいいとさえ思えた。と同時にグリーン車に乗れなくて残念だなと思う小物の僕自身が情けなくとも。

 

 「そんなワケで今後の予定を含めての作戦会議だ!」


 「そうだな東よ。ユーが童貞を失ったの状況ってどんなだったっけ? 僕イマイチよく覚えてないんだよなぁ?」


 揶揄ったのか、それともリアルなのかは分からないが答えなど求めていないだろうことだけは確かな三河君のセリフに、ブチ切れるどころかどこか遠くを見つめ、なにやら思い出し笑いをした気持ち悪い顔の海道君に僕と千賀君は激しくドン引き。


 「確かクリーチャーとやっちゃった……ま、いっか!」


 「!?」


 最後に気になる言葉を残すデビル三河に僕と千賀君はヤキモキ。結局何もわからずじまいでその話はお開きとなったのであった。なんだかモヤモヤするなぁ。


 「まぁあれだ。東の初体験は置いといてっと、改めて今後の予定を立てようか」


 こうして海道君、もとい、改めて三河君の提案により男子会議が車内で行われるハメとなったのだが、果たしてテーマは何になることやら。

 

 帰りは僕もグリーン車でお願いしますよ三河君ってば!

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