第五十九歩


 「メーって誰? もしかして人間ではなくって動物かなんか? そんなのと私を比べるなんてチョーバカにしてない?」


 新瑞さんは率直な疑問を海道君にぶつけた。しかし……


 「…………」


 返事がない。只の屍?


 「バカだなぁ瑞穂っち。当の本人がそんな簡単に口を割るかってーの! つか、やっぱ瑞穂っちも東が好きなんじゃないか」


 「!」


 どこからどうなってその答えに辿り着くのだろうか。三河君の言動には毎回驚かされるも、まんざら的外れではない。現に今回も新瑞さんの気持ちを直撃したようで、彼女は赤面発火直前状態となり下を向いてしまった。


 「フフフ、芽衣もそうだったけれど三河君にかかっては新瑞さんも形無しね。いつもの強気発言もどこへやら」


 「高慢チキな態度といい、燃えさかるような赤面といい、まるで天狗さまだな。よし、今から瑞穂っちじゃなくって天狗って呼ぶとしよう」


 ガッツリとディスられているのも気付かず未だに新瑞さんは俯いたまま。隠していた気持ちを言い当てられたのが余程堪えたのだろう。そうでなければこの場は地獄と化しているはず。


 「東も結構モテるんだな。なんだかんだ女性の影が付きまとってるし」


 「!?」


 意識トリップから突然我に返る新瑞さん。この時点で海道君に好意を寄せていると自ら白状したも同然。


 「まぁあれだな。三河と付き合うようになってからは確かにそうかもな。殆どが悪い意味で」


 「プーックックック! そりゃそうだ! 童貞じゃなくなったあの日……」


 「えっ!?」×複数


 三河君が聞き捨てならない言葉を口にした瞬間、なにかの物体がありえない速度で僕の頬をかすめた。


 「少し眠ってろ三河っ!」 


 {ズゴッ!}

 「ぐへっ!」


 野生動物を思わせるフィジカルで隣に座っていた海道君が三河君の顔面目掛けてグーパンの重い一撃!


 「…………」


 その場が一瞬で静まり返る。誰もが海道君を怒らせてはダメだと身に刻んだ瞬間。

 ちなみに約一名は別の意味で静まり返った。


 「アハ、アハハハ! そ、そろそろ時間と違うか? 他の連中が待っているといけないから集合場所へ向かわなきゃだな」


 「……ちょっと待ちなさいよ」


 先程三河君が口走った意味深な言葉を速攻誤魔化そうとした海道君だったが、同じくして覚醒した新瑞さんが彼へと詰め寄る。


 「さっきのどういう意味? アンタ彼女いるの? つか、その女誰よ!?」


 「い、いやあの……」


 シドロモドロの海道君。

 この間事件を引き起こした張本人は泡を吹いて失神している。


 「ちょっと落ち着いて新瑞さん。そんなに責め立てると普段なら言えることも言えなくなると思うの」


 「……そうね、分かったわ」


 激高した新瑞さんだったが、笹島さんの一言で一旦落ち着きを取り戻した。となれば次は……。


 「海道君が女性とどうなろうと、それは彼の自由だと思う。新瑞さんが彼を好きだったとしても、それは貴方の我儘。告白もされていなければ付き合ってもいない人物に彼女面されては迷惑以外の何ものではないのと違う?」


 あれれ? 僕はてっきり海道君が女性二人から質問攻めにされると思っていた。本当に秋の空と女心はなんとやらだ。


 「…………」


 これには新瑞さんも言い返せない。全てが思い当たる節だらけってな感じか。


 「私もこれまでは男性から誘いを受けるのが当たり前だと思っていた。けれど、彼は一向にその気配を見せてくれない。それどころか、逆にどんどん魅かれて行く自分にどうしていいかわからず、だったらこちらから攻めて行こうって。それでも……」


 「えっ? この男がアンタにベタ惚れじゃないの? ってか、笹島に興味ない男なんているの!? ってか噂じゃ熱田と……」


 いるんだなそれが。しかもすぐ目の前に。更には新瑞さんを除くこの場の全ての人間が理由を知っているその悲しき事実。そして僕は当然の如く当て馬。


 「そりゃ私だってあの時初めてだった……いえ、何でもない」


 「!?」


 大爆弾発言! 

 まさかとは思っていたが!

 なんとなーくそうだなーって……いや、まだハッキリ言ったわけではないから!

 

 「そっかー、笹島はもう経験があるんだ。バージンじゃないんだ」


 「…………」


 マジか!

 少しは反論してくれ笹島さん!

 いやあああああああああああああっ!


 直後、三河君に次いで泡を吹きながら倒れる僕の姿があった。

 マジブッコロしてやろうかな三河君ってば!


 


 

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