第五十四歩


 超豪華なランチを終え、三河君を除いた僕達高校生組はまたしてもヨネダコーヒーにいた。


 遡る事一時間前。

 僕のパンピーな人生では二度と巡り合えないだろう贅の限りを尽くしたスーパーでデリシャスな鉄板フルコース料理も終盤を迎え、さあこれからどうしようとかと皆で雑談の最中、その事件は起こった。どこからか現れた数人の女性が酔ってうつらうつらしていた三河君を取り囲むと、獲物を捕らえたどこぞの部族宛らわっしょいわっしょい彼を担ぎ上げたと思ったら、速攻その場を去って行ったのだ。取り残されて唖然としていた僕達に作製支社長と三河君のお姉さんはこう説明。


 「ごめんなさいね皆さん。この後彼には重要なお役目があるから私達と同行してもらわなくちゃならないの。これに懲りず今後もマイダーリ……いえ、安成君と仲良くしてくださいね。お詫びと言っては何だけれど、この店のお代は気にしなくても大丈夫よ」


 「近いうちにお家へ皆を招待してあげたら? きっと弟も喜ぶと思うし、そうなれば小糸さんの株はダダ上がりじゃないのかしら?」


 「!」


 急に目の色が変わった作製支社長は海道君を呼びつけるとなにやらゴニョゴニョ内緒話。美女からの耳打ちだなんて一瞬とはいえ強烈に嫉妬心が芽生えたものの、血色の良かった彼の顔が見る見る青くなっていくのを見るに、強ち羨ましいばかりでもないなと思った。


 「御意、仰せのままに」


 「そうかえ。必要とあらばキッコロとエロモッコリにも手伝わせえ。然らばムチムチエロ養護教師と……」


 「ハ、ハヒィッ!」


 「おーっほっほっほっほ!」


 会話の内容が意味不明なものの、あの男気満載な海道君が真っ赤な顔してブルブル震えだした。

 それ程までに作製支社長は恐ろしいのだろうか?

 それとも何か弱味を握られている?


 「で、では小糸さん、三河のお姉さん、今日はこれで帰ります。お昼ご馳走様でした。……おい、お前らもこの人達にお礼を!」


 こんな感じで逃げるようにステーキハウスを後にした。

 そして現在に至る。


 「ハアァァァァァァ……」


 大きな溜息をついたのは、なんと伊良湖委員長であった。


 「あの人達はなんなんでしょうねぇ……。お姉さんや作製支社長もそうでしたけど、三河君をかっさらって行った女性も全員が顔面ハイレベル。いや、これまで彼がらみで関わった女の人って全員がキレイだったし」


 なにも沈んでいたのは彼女だけではない。我が麗しき笹島姫も同じようにテンション激下がり。いや、百歩譲って二人は三河君振り向かせ同盟を組んでいたからまだ理解できる。


 「まじかぁ……」


 治村さんが落ち込む理由は皆無なハズなのにその意味ありげな態度はなんだ?

 知らないうちに魅了されてしまったとか?


 「元気が取り柄の治村さんでも落ち込むときがあるんだね」


 「おま、いい加減死んどくかキュー太郎? ってかさー、三河のまわりってなんであんなんがゴロゴロしてるの? 少なくとも私の知っている社会人の女性はもう少し田舎臭いってゆーか、あか抜けないってゆーか……」


 殺害予告頂きました。

 もう訴えてもいいレベルかも。


 「だよなー。海道はあの人達を見慣れてるからあれが女性の平均レベルと思ってるのか? だから治村なんかは相手に出来ないとかか?」


 千賀君がとんでもない大砲をぶっ放した!

 治村さんの怒りエネルギーが高圧縮され爆発間近!


 「いや、俺は治村とか笹島みたいな普通の女性が好きだぞ? あの人達は……まぁあれだ、いい人達だけどな」


 {ボンッ!}


 どこからかハジける音がした!

 違う意味で治村さんが大爆発!

 まっかっかなその顔は病気が原因なら死ぬレベル!


 「なんかはっきりしないですね? 作製支社長や三河君のお姉さんをキレイと言わない海道君になにか意図を感じます」


 好きの中に自分の名前が無かったからか、少し切れ気味で海道君を問い質す伊良湖委員長。怒らせると結構怖いかも。


 「いや、見た目だけが女の魅力ではないだろう? それ以上は俺の口から言わせるなよな。まだ命が惜しいし」


 「そんな女性観を持つ海道はもしかして彼女いるのか?」


 千賀君がやらかした!

 ハートを抉るドストレートを海道君へ放った!


 「なっ!?」


 となれば治村さんはハトが豆鉄砲をくらった顔へと表情チェンジ!

 まるでその発想は無かったと言わんばかりに。


 「いや、彼女なんていないよ……でも」


 「でも?」

 「でも?」

 「でも?」

 「でも?」

 「でも?」


 煮え切らない海道君の答えに全員がハモる。ある者は同年代における男女交際への在り方を問い、またある者は純粋に好奇心から、そして約一名はその地位へ自分を重ねるように答えを求める。


 「なんだお前等? 全員興味津々かよ? ……まぁ、好きな人はいるよ。これは三河ぐらいしか知らないけどな」


 衝撃的事実発覚!

 いや僕らにとってはどうでもいいけれど、あのお人には致命傷を与えるほどに超有効な攻撃!


 {おのれ三河め……問い質してやる!}


 ボソリと呟く治村さんはなんだか怖いオーラを纏っている。とっても嫌な予感が。……マジでぶっ殺されるかもね三河君ってば。

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