第五十一歩
「思い出した!」
急に大声を張り上げたのは、なんと伊良湖委員長。余程興奮しているのか、言葉にいつもの丁寧さが見られない。
「ほら、作製さんって、あの作製小糸さんですよ!」
「?」×4
どの作製さんなのだろうか?
海道君を除いた他の連中も全員頭上にクエスチョンマーク。
「ほら、あのバンガローに泊った時、豊川社長秘書の常世田さんがたしか作製支社長に新罠副支社長って口にしてませんでした? 豊川社長本人とのやり取りで小糸さんとか愛ちゃんとか」
言われてみれば!
どうりで聞いたことがあったような名前だったんだ。
「それだったのね! 言われてみれば新罠副支社長へとお会いした時になんだかデジャブ感があるなーって感じていたの!」
「えっ? 笹島さんは既に新罠副支社長とお会いしたの?」
「えっ! あ、あぁそう。そうなの……皆と合流する前に休憩した喫茶店でね。ねねぇ熱田君」
シドロモドロとなる笹島さんもまた可愛らしいな。
だけどその理由もまぁ分からないでもない。なにせあの女優浜松濱名子が同席していたのだから迂闊なことも言えない。一般ピープルである千賀君や治村さんに伊良湖委員長が舞い上がって大騒ぎしないとも限らないし。
「ほら小糸さん、バレちゃったじゃんか」
「あら。アナタの御友人ならこの先も見据えて顔を知っておいていただかないと」
直後、作製支社長は席を離れると、先ずは僕の背後へ。
「トヨカワ自動車駅前オフィスビル支社代表の作製小糸でございます」
絵に描いたようなパーフェクト感満載お辞儀を披露する作製支社長を見た僕はプチパニック発動!
「あっ! え、えっと……あぁは、はい!」
慣れない畏まったご挨拶に戸惑い、一瞬自分の置かれている状況を見失ってしまうといった醜態を晒す。
「ぼ、僕は三河君とおおおお同じクラスで席が前のあつあっつつ熱田久二ともももも申し上げまぁす!」
呂律もまわらず噛みまくりの最低最悪な自己紹介。本当に恥ずかしい!
「フフフ、熱田くんね。彼ともども今後とも宜しくね」
作製支社長は同じように他の皆へと自己紹介を重ねる。この時千賀君も僕と同じ無様にやらかしたのを見て少しだけ安心した。
「あ、あの……作製支社長!」
「あら笹島さん、なにかしら?」
席に戻ろうとした作製支社長を引き留める笹島さんが聞きたいのは間違いなく彼のことだろう。そう、ファッキン三河の!
「新罠副支社長もそうですけど、三河君とお二人は一体どういったご関係で?」
ド直球だ!
チキンな僕などとは違い、知りたいことには貪欲に突き進む女さん特有のド直球ストレートだ!
「あら? 彼からは何も聞いてないの? それと私の事は小糸でいいわよ」
ここで話題の男が絡んでくる!
「言うワケないじゃん? 外見と頭脳は素晴らしいけど中身が伴ってないだなんて悪口を僕が本人のいないとこで言うと思う?」
「あっ! 言ったなぁ! 帰ったらお仕置きよ!」
小糸さんは三河君に飛びかかると、じゃれるように頬を引っ張ったり鼻を上へと押し上げたりする。それはどこからどう見ても恋人同士のイチャイチャムービー。それにしても彼女は本当に先ほどまでパリッと僕達への挨拶を熟した作製支社長なのだろうか?
「あ、笹島さん、因みに先程の答えだけれど……そう、家族ね」
苗字も違う小糸さんの返答に甚だ疑問が残るも、それならば一緒に生活しているであろう帰ったらとの言葉が変ではないと無理やり納得する僕……と他の面々であった。
とはいえ、超絶美女と終始イチャイチャしやがって本当にブッ飛ばすぞ三河めが!
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