第五十歩
三河君は彼が小糸さんと呼ぶ女性ととても楽しそうに話をしている。料理人は彼女を作製さんと呼んでいた。となればフルネームは作製小糸で間違いないだろう。っつか、どこかで聞いたような聞いてないような?
それは置いておくにしても、その小糸さんのエロさはどうだ?
「フフフ」
深めに入ったスリットの超タイトなドレスで時折足を組み替える。その時チラリと顔を覗かせる下着のエロさが男心を捉えて離さない。女性にあまり関心を示さないあの三河君ですらチラ見を連発。僕は勿論ガン見の一点集中だ!
「さ、さすがエロ師匠と呼ばれるだけの事あるわね。彼の嗜好をよくご存じだ事で」
ワインを運んできたココさんが小糸さんにチクリと嫌味を。しかし小糸さんは小糸さんでソレに動じるどころか止めを刺しに来る。
「あら、私は自分の武器を最大限に生かしているだけよ? 多少人より行動力があるだけ。アナタのように縛られるモノもないしね」
「え? 彼から何か聞いたの?」
「温泉街の本店で働くあなたを見ていれば自ずとわかる事。彼にこのステーキハウスに纏わる人間関係を暴かれていたしね。それと……」
二人の会話は理解不能で海道君を除く僕達高校生組は蚊帳の外。ちなみに海道君が関係者だって分かった理由はココさんをチロチロ見ながら何かを思い出すように股間を押さえていたから。隣の治村さんに見られたらきっとドン引きされると思うよ海道君ってば。幸い彼女はエロ師匠に釘付けだからいいものの……。
「おっと小糸さん。それぐらいにしてあげなよ。ココさんもエロ師匠に嫌味攻撃したらダメだよ。この人はただのエロ美人じゃないんだから。孔明をも凌ぐ知略で簡単にねじ伏せられちゃうんだからね。しかもあり得ないダメージのオマケつきで。弟子がなぜこの人に従順なのかもう一度考えてごらんよ」
「そ、それもそうね。……では改めまして、ご注文のミュジニーです。ごゆっくりお寛ぎくださいませ」
一瞬にして張り詰めた緊張の糸が三河君により断ち切られた。あのまま自然にブチ切れて戦いが勃発するのも見て見たかった気がするも、それは僕の胸の中だけにしまっておくとしよう。
「ね、ねぇ熱田君、あの作製さんって人は三河君のなんだろうね? 結構歳も離れていると思う。それにしてもキレイな人ね。三河君のおかげで自信喪失に拍車が掛かっちゃう」
笹島さんが自信喪失だって?
それならクラスにいる他の女子はどうなるのか?
そこで治村さんや伊良湖委員長の出番ですよ。
お二人の今現在の状態はっと……。
「すんごい素敵な人。女性の憧れる女性って感じ。ココさんもそうだけど伊歩が子供に見えちゃうわー」
「で、ですよね。いえ、決して笹島さんが子供って訳ではなくて、三河君の知り合いの女性が大人過ぎるんですよねぇ。自信喪失どころか今にもビルから飛び降りたいぐらいの気分……」
伊良湖委員長が物騒な事を言い出した。それほどまでに格差を見せつけられてしまったのだ。それに引きかえ僕達男連中はどうだ?
「えへへへ」
鼻の下を伸ばしまくっている千賀君。
「はぁぁぁぁぁ」
ポーッとして股間を押さえ、時折思い出すようにイヤラシイ笑みを浮かべる海道君。
そして僕は……
「チ、チロチロパンツ見せるのやめなよ小糸さん! キューちゃんを見て見なよ! ユーの下半身に釘付けじゃないか! 青少年にはテトロドトキシンより猛毒なんだからねパンチラなんてものはっ!」
「!」
何を言いだすんだこの男は!
おかげでこの場にいる全員の視線に晒されてしまったではないか!
「フフフ。キューちゃんだっけ? アナタもお気の毒に。安成君の性癖を誤魔化す壁に利用されたわねぇ」
「えっ?」
違う意味でやりやがったなこの男は!
注意を自分から背けるために僕を利用したのか?
「あっ! バラしやがったな! そんな女狐はこうだっ!」
「フフフ……イヤァーン!}
キャッキャウフフと見ているこちらが赤面してしまいそうなイチャイチャショーが幕を開けた。それはまるでおっさんがキャバクラのホステス相手におイタをしているかにも……いや、キャバクラ行った事無いんで知らないけれど。
「そうか、三河君はあー言ったのが好物なのね……」
それらで優秀な笹島さんは何かを学んだようだ。
もしかすると彼女のパンチラが拝めるなんて事も……。
僕は最初から君を信じていたよ三河君ってば!
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