第四十九歩
チカチカに着飾るココさんに導かれ、カウンター奥側から順次着席を促されるも既に一番奥の席には女優かモデルかとも思わせる美しく艶やかでスレンダーな女性が着座していた。
「あれ? さっきカウンターは貸し切りだと……」
その女性は僕に気付くとにこやかな笑顔で迎えてくれた。近くで見るとより一層その美貌は妖艶さ増し、目の当たりにした全ての男どもは間違いなく虜にされるであろう確信が持てる。当然僕もその一人。先程の新罠副支社長とはまた違った美しさだ。
僕はキョドりながらも図々しくその隣へ座ろうと椅子へ手を掛ける。
「あ、キミ。そこはアン……三河君の席だから、その隣へ座ってね」
ココさんからそう言われると、なんの疑問も持たずにその一つ隣の席へ。正直隣の席だったならばド緊張で食事も喉を通らなかったと思う。
「いらっしゃい」
「……ハァ」
三河君が指定席へ腰掛けると、その女性は悩まし気な表情で彼へ軽く挨拶。三河君は女性を見るなり大きな溜息を一つし、ガックリ肩を落とした。
その意味も理解できないままに、三河君から数えて僕、笹島さん、治村さん、海道君、千賀君、そして伊良湖委員長の順に席へと座る。そのタイミングを計ったかのように奥から一人の男性が。
「いらっしゃいませ。ようこそ橋元へ」
どうやら料理をしてくれる人のようだ。それにしてもでかいコック棒だな。
「これはこれは三河さま。いつも御贔屓有難うございます」
「!」×5
御贔屓だって!?
海道君以外の僕達全員大きな口を開けた間抜け面で三河君に目を向ける。
「ふざけんなよレゴ? 最初に言っとくけど、所持金1500円しかないからな!」
「大丈夫ですよ。既に代金はお隣のお美しいお方から頂いておりますので」
「!」×5
再び海道君以外の僕達全員が三河君に釘付け。もうなにがなにやら?
「それでは皆様、お食事はこちらへ任せて頂くとして、お飲み物は如何いたしましょうか」
「チッ!」
「まぁまぁ三河さん、どんな経緯があってここへ来られたのかは知りませんが、ドリンクはウチの会長からのオゴリって事で機嫌直してくださいよ」
会長だって?
この店の?
三河君ってどうなってんの?
本当に人間?
「マジで? ジジイの奢り?」
「はい。過去の償いとでも思って頂ければと」
過去にこのステーキハウスと何かあったのだろうか?
不思議と海道君も目をつぶってウンウンと頷いている。
「じゃあミュジニー! さっき入口脇のワインセラーでボトルを見かけたんだよね!」
「ミ、ミュジニーね。三河さんらしからぬお手頃な……」
「ン? あのラベルってルロワでしょ? あれってそんな安かったっけ? だったら安心してボトル空けられるね!」
「!}
料理人の額からは考えられない量の汗が流れ出した!
となればそこそこ高額なワインに違いないとこの僕でも分かる。
「そこまでにしてあげなさいよアン……安成君。欄堂さん焦ってるじゃないの?」
三河君の隣に座る女性が口を開いた。先程よりも長く発せられるその美声に誰もがウットリ。それにしてもエロいと感じるのは僕だけだろうか?
「えー!? だってこんな機会またとないんだよ? 小糸さんも一緒にどう?」
女性だけでなく、三河君も彼女の名前を口にする。やはり二人は知り合いだったようだ。
「お店だと数百万円はすると思うけどいいのかしら?」
「なに言ってんだよ小糸さんってば! このワインリストだとミュジニーは3万円って」
「さささ三万円!?」×4
僕達高校生組は揃って声を上げる!
たかがワインに三万円って!
ちなみに女性の口から数百万円との言葉が出るも華麗にスルー。何故なら金額が遥か彼方過ぎて想像すらつかないからだ。これに関しては他の連中もきっと同じだろう。
「んもう、いじわるねぇ。そこにはどこにもドメーヌルロワだなんて載ってないでしょ?」
「チェッ! じゃあシャンボールでいいや。小糸さんに助けられたねレゴ。フェイクは得意だったユーだけど、まさかまた……」
「いえいえいえ滅相も無い! お、御見それいたしました三河さん。それとご配慮感謝いたします作製様」
高校生が混ざっているだなんて全く感じさせない彼等の会話。それもその筈、ワインの話、いや、そもそも未成年がお酒の話題について行っているのがおかしい。つか、料理人の欄堂さんは相当に三河君より年上だと思うが立場はまるで真逆ではないか?
マジで中身はおっさんじゃないのか三河君ってば!
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