第四十八歩
{チン!}
エレベーターの扉が開くと、そこには高級感漂うステーキハウスが!
それ程外食をしたことのない僕なんかでも、この店が庶民の味方でないことぐらい簡単に想像できた。
「やっぱりここか……」
三河君がポツリと呟いた。
どうやら彼はこの店に来た事があるようだ。
「こんちわー。予約しておいた海道ですけど……」
入店して直ぐに案内係らしき人物へ声を掛ける海道君。予約って事は、彼もまたこの店を知っている?
「ねえ海道君、本当にこの店で大丈夫なんスか? チョー高そうなんだけど」
店の放つ威圧感にビビりまくる千賀君。
彼もまた庶民。
「ようこそ橋元へ。海道様ですね。こちらで少々お待ちください」
案内係らしき人物はレトロ感溢れる重厚な内扉を開け、奥の店内へと消えて行った。
扉が閉まる瞬間、チラリとだが店内の様子を伺う事が出来た。そこには既に多数の客が食事を楽しんでいた。それなりの恰好した姿のお客が。
「ゲイロホテルの最上階にあるレストランなんてオシャレねー。あれ? どうしたの伊歩?」
燥ぐ治村さんに対して真逆の反応を示す笹島さん。その顔は顔面蒼白で、この店が僕達にふさわしくないと身をもって伝えようとしているかにも見える。
「ちょ、ちょっと熱田君、ここ超高級店よ? 高校生の私達だけで入っていい場所ではないような……」
笹島さんが僕へヒソヒソ話を持ち掛けてきた。
正直嬉しい。
「笹島さんはこの店に来たことあるんだ?」
「うん。以前家族で来た事あるんだけれど、支払いしていた時のパパのあんな悲しい顔はこれまで一度も見た事なかったから強烈に覚えてるの。相当支払ったわよあれは」
マジか!
今度はその話を聞いた僕が三河君へ近づきヒソヒソ話を。
「ねぇ三河君、笹島さん曰く、この店相当高級だって……」
「あー、むちゃくちゃ高いよ。一人あたり数万円はするんと違う?」
笹島さんに続いて僕も顔面蒼白となる!
そんなにお金持ってないし!
「でもなんとかなると思うよ。最悪食い逃げすればいいし」
これ程の高級店に怯むどころかサラッと悪事を働けばいい的な物言いをする。
この男の底が知れない。
そうこうしているうちに先程の案内係らしき人物が戻ってきた。
一緒にタイトなドレスを着た女性を伴って。
「いらっしゃいませ海道様。ご予約承っております」
丁寧な応接を見るにどうやらお店の従業員らしい。
それにしても彼女の恰好はなんだ?
店内の客といい、何かのパーティーでもやっているのだろうか?
「ね、ねぇ熱田君。このお店きっとドレスコードあると思う」
ドレスコード?
もしかして男性はジャケット着用必須とか女性はヒールのある靴がなんちゃらとかのアレか!?
「えっ! でも僕達普通の恰好で……」
「そうなの。断るどころかその事に触れもしないのが不思議なの」
笹島さんの言葉に、先程覗いた店内の様子を思い出してみる。
言われてみれば来店中のお客は、見える範囲内だけに限られるもキッチリとした格好をしていたように思える。
男性の殆どがネクタイ着用で、女性達は皆煌びやかに着飾っていた。
「ココさんだ! 相変わらず綺麗ですね!」
「海道君もぜんぜん代り映えしないわねぇ」
その女性は海道君の知り合いだったようで一安心。
これでこの店を無作為に選んだのではないと確信した。
本当はちょっとだけ海道君を疑っていたのだ。
いい恰好をしようとしてSNSか何かで調べただけの安易な考えでこの店を選んだのではと。
「今日は沢山のお友達と一緒なのね。皆同級生?」
「ええ、まぁ」
二人は揃って三河君を見つめる。
その真意は謎のままに。
「今日は君達の為にカウンター席貸きりよ。存分に楽しんでね!」
「ありがとうココさん!」
こうして僕達はココさんと呼ばれる美しい女性に連れられ店内へ。
一人入り口前で四つん這いとなって項垂れる三河君を残して……。
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