第四十六歩
「思わぬところでお会いしますね」
その美しい女性はやはり三河君の知り合いと見える。とはいえ、年齢的にその関係性が大いに気になるところ。少なくとも僕にはこのようなお色気ムンムン大人の女性代表みたいな知り合いは一人としていない。つか、それが普通と違う?
「お姉さんから聞いてはいたものの、ダーリンと浜松濱さんのお二人は本当に仲がおよろしいことで」
なに?
聞き違いか?
いや、確かにダーリンって……?
「フ、フザケンナよ支部長! どうしてユーがここにっ!?」
三河君が彼女の名らしきものを口走った瞬間、その女性は視線を彼から浜松濱さんへと移動。そして軽く会釈をしながら自己紹介を始めた。
「私はトヨカワミドルタワーオフィス副支社長の”
「副支社長だって!? い、いつの間に!」
「おーっほっほっほ! 時は流れておりますのよダ・ー・リ・ン・!」
トヨカワ支社の副社長だって!?
いくらなんでも若すぎじゃないか?
それに超美人だし!
つか、ダーリンってなんだ!?
「そ、そうかそうか! 名子ちゃんは仕事があったねー! ハハ……ハハハ! だったら僕らはここらでお暇して……うおっ!」
急に焦り出した三河君が席を立とうとした瞬間、その美人副社長は彼の膝の上へと強引に腰を下ろした。
「な、なにすんだ愛ちゃん! ちょっとどいてよ! 僕はこれからそこの二人と買い物へだな……」
必死に抵抗する三河君だったが、美人副社長はそれを無視して僕と笹島さんにこう言った。
「お二人はダーリンのクラスメイト?」
「は、はぁ。まぁそうなんですけど……。僕は熱田久二で、隣に座る彼女は笹島伊歩さんです。それよりダーリンって……」
美人副社長はニヤリと笑い、意味ありげにこう答える。
「ダーリンはダーリンよ。それ以上でもそれ以下でもないわね」
その表情は、全ての男を虜にする如く甘美で妖艶。無論、この僕熱田久二も例外ではない。
「なる程ねぇ」
更に美人副社長は納得したように意味不明な呟きをする。その後も暫く僕と笹島さんを交互に見るもんだから、僕達二人は蛇に睨まれた蛙状態で完全委縮。それにしても威力のある流し目よなぁ。
「あ、愛ちゃんの用事があるのはそこの名子ちゃんと向こうにいる宝石さん達だろ? 僕達一切関係ないじゃん!」
「ダーリンのまわりをブンブン飛ぶ虫を無視しろって、そりゃ無理な話だわ」
会話から察するに、二人はマジで付き合っている?
しかしここで三河君の顔つきが急変する。
「おい愛、いい加減にしろよ? 僕の楽しい時間を奪うってことは、そのままユーの自由時間も必然的に減ることとなるけどいいんか? その時間は他の連中へ……」
声こそ大きくないものの、ドスの効いた低音ボイスで筋者宛ら美人副社長へ脅しをかける三河君。
どのような弱みを握られているのかは知らないが、脊髄反射をも凌ぐ素早さで三河君の膝から腰を上げると、今度はテーブル前へ移動しそのまま直立不動となる美人副社長。コレは一体……?
「わ、ワタクシ新罠愛はこれにて職務へと復帰します! ささ浜松濱さん、こちらへ!」
「あ、ちょ、ちょっと……」
直後、口を開いたと思ったら座っている浜松濱さんの手を取り強引に立たせると、そのまま店外へ小走りで消えて行った。それを見て追うように店から出る宝石さんに、なんとも世知辛いなぁと、男はいつも弱い立場だなぁと同情せずにはいられなかった。
「さて、邪魔者も消えたし、そろそろ行きますか」
三河君にとっては邪魔者でも、僕にとっては目の保養だった美人副社長。そして僕を睨みつける笹島さんにとっても三河君同様彼女は邪魔者だったようだ。
これ以上の揉め事は勘弁してよ三河君ってば!
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