第四十二歩


 「ハァハァ……おい三河、もういいんじゃないか?」


 若鯱屋の2Fから走り続けること約5分、僕達は治村さんたちとの待合場所である金時計とはまるっと逆の銀時計下に居た。


 「バカか東! あそこには弟子の目もあるハズなんだよ! それがなんのアクションも無いなんておかしいと思わないか!? 何を企んでいるのか知らないけど、せめてヤツ……いや、ヤツ等の目の届かない地下街へ逃げ込むんだ!」


 「た、確かに……。見つかったら何されるか分かんないもんな」


 「だろ? ぶっ殺されるのがイヤならもう少し我慢して走れ!」


 穏やかでない二人の会話。時々出てくる弟子とはどんな人物なのだろうか?

 もしかして格闘家か?

 それとも武闘派のあっち系?


 「東の態度を見れば分かると思うけど、アイツ等は容赦ないからな! キューちゃんもイケメンももう少しだけ頑張れ!」


 僕と千賀君は意味も分からず三河君の言われた通りに直走る。彼の口から出た言葉が全て信頼に足ることを今現在における海道君の行動が物語っていたから逆らう理由などこれっぽっちも無い。

 

 {ブルルルル……}


 再び走り出そうと思った矢先、ポケットにあるスマホから伝わる振動。これは間違いなくあの人から。


 「ご、ごめんみんな。後から行くんで先行ってて」


 「どうしたのキューちゃん、ウンコ?」


 「違うわい! 電話だよ電話!」


 「あー、だったら先行ってるわー。地下街にあるご当地土産物屋で観光客を装ってるからなるべく早く来てね」


 三河君達はそう言い残して表にある”リスカ地下街”専用エレベーターへ向かうと、そのまま地下へ消えて行った。


 「おっと、こうしてはいられない!」


 その間何度も切れては再びブルい始めるマイスマホ。きっと出るかバッテリーが無くなるまでエンドレスで続くだろう。

 

 「もしも……」


 「うらあぁぁぁぁぁぁっ! もっと早くでんかぁボケエェェェェェッ!」


 電話に出るなり鼓膜へ激しい一撃!

 

 「ひえっ!」


 「ひぇっ! じゃないわよ! アンタ達今どこにいんのよ!? あんまレディーを待たせるんじゃないわよね!」


 初めて掛かってきた女性からの電話は説教。なんか悲しい……。

 そして僕は治村さんへこれまでの経緯をこと細かく説明。三河君達には申し訳ないけど、まだまだ自分の命が惜しいんで。

 

 「そう、分かった。だったら私達は偶然を装ってそのご当地土産物屋へ行くわ。アンタが先に合流するとまた場所変えられかねないから私達が接触した後で白々しく姿を見せなさい」


 「は、はぁ……了解です」


 こうして僕は、皆より少し遅れて動くハメとなってしまった。なんだかなぁ。



 ―― 10分後 ――


 別段する事も無く、どこぞのカフェで一人時間を潰す勇気も持ち合わせない僕は、銀時計の近くでただボーっと時を過ごしていた。

 もうそろそろ皆の居る場所へ向かってもいいかなと思ったその時、なにやらざわつく地下街専用エレベーター付近。周りの人々は揃って地上へと上るエレベーターへと目を向けている。


 「なんだ?」


 様子を見に行こうと思った瞬間、そこから人影が飛び出してきた!

 それは真っすぐこちらへと向かってくる!


 「キューちゃん逃げろっ! ここはヤバイ!」


 三河君だった。

 しかも悲壮感目一杯の表情で僕の手を握ると、


 「せめて僕達だけでも生き残るんだ!」


 と、訳も分からぬままに連れ去られてしまうこととなった。

 それにしても生き残るって、いったい何が起こったのだろうか……?

 

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