第四十歩
総合駅へ到着後、僕は他の連中を待合場所で有名な金時計の前まで誘導する。
実は治村さんから(脅されて)今回買い物を一緒にするとの約束をさせられていたのだ。当然他の皆は知らない。
「なぁキューちゃん、なんで金時計の前で休憩なんてするの? 僕この場所あまり居たくないんだけれど……」
「まぁまぁ三河君、ちょっと休憩しようよ」
やはり最初に疑問を呈したのはこの男。妙な勘が働くようだ。
「ちょっと千賀君、いいかな?」
僕は千賀君を呼び、彼と共に三河君や海道君のいる位置から少し距離を置いた場所へと移動。一人でも多くの犠牲者、いや味方を引き入れようと彼に今回小悪魔治村の企てた姑息な策略をバラす決意をした。
「実は治村さんから今日の買い物を一緒にしようって言われたんだよ。ダブルデートしようってさ。でも三河君はそーゆーのあまり好きじゃない感じでしょ? だから騙すようで申し訳ないけれどこんな手を使わせて貰ったんだ。だから千賀君も協力してよ。お願い!」
「ダブルデートってマジか熱田! でかした!」
思った通り、容易に今回の作戦へ食いついてきたブラックバス千賀。女絡みでは相当な悪食を、これに限らずこの先も利用させて貰うとしよう。
そんな思惑など露知らず、あの男は僕らに無関心を決め……無関心を……うん!?
「おい熱田、あれを見ろ!」
三河君を騙した後ろめたさの気持ちもあってか、千賀君に言われるまでも無く僕の目は無意識に彼の方を向いていた。
そうなのだ。
僕達が悪だくみを企てる最中、三河君はとうに女子へと接触していたのだ。
「あれ? なんか変だな?」
治村さんの話だと、笹島さんと伊良湖委員長も一緒に来ると言っていた。しかし今三河君と接触しているのは女性一人だけ。
「千賀君戻ろう!」
「おっけー! 計画がバレたら台無しだからな!」
別に台無しになんてならないと思いつつその底抜けの明るさに少しだけイラっとするも、そんな気持ちを押し殺し、急いで三河君達の下へ。
「あれ? 治村達と違うじゃん。急いで損した」
その女性は多少年齢を重ねているものの、全身から品が滲み出ていた。髪はカッチリ結って薄目の化粧。体のラインがモロに現れるピシッとした制服らしきものを着てのシャンとした立ち姿はまるでファッション雑誌のモデル。ルックスは飛びぬけて素晴らしいとは言えないまでも、そこら辺りにゴロゴロ転がっている石ころ並の女性よりははるかに高いレベルを誇る。
「おい熱田、もしかして三河達補導されてんじゃね?」
やはり千賀君も同じことを考えていたようだ。
なんとなーく教師感を醸し出していたのは僕も感じるところ。
しかし騙されないぞ。
彼女は間違いなく違う属類。
なぜなら着ている服がスーツではないから!
「なんだよ長良ちゃん! 僕達なんて放っておいて自分の仕事に戻りなって!」
「その仕事を遂行しておりますのよ。おーっほっほっほ!」
「今日は若鯱屋に来たんと違うからね! ちょっと服を買いに……」
「それならば私共にお任せあれ! ささ三河様、向こうで他の社員たちが首を長く、なが~~~~くして待っておりますゆえ」
マジか!
言われて若鯱屋の入り口に目を向けてみると、本当に社員らしき複数名がこちらに手を振っているではないか!?
どうやら彼女は教師などではなく、若鯱屋のコンシェルジュのようだ。
どうして普通のいち高校生がこれほどまでに有名なデパートの社員と繋がっているのだ?
「ほら、他の皆さんも一緒にどうぞ。我が若鯱屋の最高峰のおもてなしをご堪能あれ!」
僕達は女性社員に言われるがまま、ついて行くほかなかった。
だって肝心の三河君を人質に取られたのだから!
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