第三十七歩


 「そんなワケで、今回の中間テスト第一位は笹島だ。皆拍手ーっ!」


 「おぉっ!」


 {パチパチパチ}


 憂鬱なテストも無事終了し、担任から今回の結果が発表された。

 しかしなにか腑に落ちない。自分の受け持つクラスから総合一位を獲得した生徒が現れたというのに、担任の顔はどこか冴えない。

 拍手と称えてはいるものの、その顔はどこか引き攣り、暑くも無いのに噴き出した汗で額はネッチョリべとべと不自然極まりない。


 「暫定ってなんだよ?」


 後ろに座る三河君が呟いた。

 

 (それだ!)


 彼の一言で僕の心に引っ掛かった蟠りの答えへ辿り着いたのだ。

 全教科の答案も返され、結果が分かっているはずなのに態々暫定の言葉を用いるその意味。


 「キューちゃんはきっと真ん中より少し下ぐらいの順位だろうね。全教科平均点前後だったようだし」


 「な、なんでそんなこと知ってるの!?」


 「そりゃ席に座ると同時に大きく広げてみれば分かるよー! 後ろから見たら丸見えだもの」


 この男は僕を監視しているのか?

 もしかして弱味を握って脅迫でもしようって魂胆でもあるのだろうか?


 「み、三河君こそ順位はどうだったのさ?」


 「いいじゃん別に」


 「ひ、卑怯者っ! 僕のをこっそり覗いて自分だけ秘密だなんて……」


 「あー、わかったわかったから。僕は平均点以下のケツから数えた方が早いですーっ!」


 半ば半ギレで答えたものの、返ってきた言葉は曖昧で誤魔化そう感アリアリ。本当にこの男はズルいな。


 「なんだよライブ。なんか言いたげだな?」


 隣に座る笹島さんは三河君をじっと見つめる。確かに何か言いたそうだ。


 「なぁキューちゃん、学年一位様が下層に住む僕達をヘドロでも見るような目で見てくるぞ」


 嫌味を言われて癇に障ったのか、笹島さんは吸い付きたくなるほどに美しい口を開いた。


 「そうね。埋めた答えは全て正解の40点だったものね三河君は。答えが空欄の問題は考えようとすらしなかったようだし」


 なに?

 40点だと?

 僕以下じゃないか!


 「な、何言ってんだよライブ? 恥ずかしいから点数まで言わなくとも……」


 「いえ別に。のはずの私が間違えたり解けなかった幾つかの問題も不思議と全て正解してたけどね三河君は」


 えっ!?

 それってどう言う意味?


 「ぐ、偶然だよ偶然! アハ、アハハハハッ!」


 「へー、偶然ねぇ。偶然で数学や物理の複雑な問題が解けるとは思えないけどねぇ」


 その後もネチネチネチネチと責められる三河君が少々気の毒にも。

 そんな笹島さんの姿を見るに、普通の女子と同じ一面があるのだと知らされた。


 (結構シツコイな)


 これまで完璧だと思っていた彼女だったが、三河君の前ではどこにでもいるごく普通の女の子へと態度が変化。それが僕の目にはとても新鮮に映る。


 「ま、まぁ、これまで不在だった一位が遂に発表されただけでも良しとしなよライブ。そしておめでとう」


 強引に話をまとめる三河君の目は泳ぎまくっている。なにか不都合でもあるのだろうか?


 「そうね。きっと先生方も諦めたのでしょうね。本来一位となるはずの人物はまともにテストへと取り組む気が無いようだし、埋めた答えは全問正解するような当の本人もそれ以上は望んでいない感じだものね」


 まるで学年一位は私ではなく三河君だとでも言いたげな笹島さん。いやいや、それは流石に言い過ぎでは?


 「アハハ、何言ってんの笹島さん? 三河君も買いかぶり過ぎだと言ってやりなよ……」


 あまりにバカバカしい話なので、一部始終を耳にしていた僕は笑いで場を濁そうと振り返り、二人の会話へ割り込もうとするも、


 「…………」


 と、容疑者は完全に沈黙。

 ダンマリはイエスと答えたも同じ。

 三河君はその口を堅く閉ざしたのであった。

 図星かいっ!


 

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