第三十四歩
一同店内一番奥にある大テーブルを囲むと、各々好きな場所へと腰を下ろす。とはいえ、窓側へ五平先輩が座ると、僕達全員その反対側へ。
「お、お前等いい度胸だな?」
怒っているのか、少し声が震えている先輩に誰もが無言を貫く。なんとなくだがあの人の隣に座るのは御遠慮したいと全細胞たちが訴えてくるのだ。きっと千賀君も同じだろう。
「男共はそっちでいいが、一人ぐらいこっちに座ってもいいんじゃないか? てか、かわい子ちゃんの隣に座るお前が僕の隣にこいや!」
「えっ!?」
突如御指名が入る治村さん。五平先輩のイヤラシくてキモい顔を見るに、キャバクラとはこんな感じなのだろうかと連想してしまう。
「あ、あのアタシ……ちょっと伊歩! 助けてよぉ」
「別に隣へ座るだけでしょ芽衣。なんなら私が代わりに……」
「かわい子ちゃん、お前はそのままでいいんだよ。芽衣っつったな。お前がここへ座るんだ」
赤楚見高校一番の暴君と恐れられている五平先輩からの誘いを無下に断る訳にもいかず、渋々席を立つ治村さん。仲間外れが嫌と一緒に来たのが裏目となってしまった。
伊良湖委員長や笹島さんにしてもそうだが、女性の染色体が遺伝子レベルで五平先輩を避けているようだ。生理的に好かないとはこういった感じか。
結局五平先輩の隣へ治村さんが、その反対側には伊良湖委員長に千賀君、で僕に笹島さんの順で座ることとなった。
「僕はな、芽衣みたいな普通より少しかわいいぐらいの女が好みなんだよ。そこのかわい子ちゃんやマジメちゃんみたいなタイプにはいつも煮え湯を飲まされているからな」
なるほど、五平先輩の言う通りだ。治村さんも確かにかわいらしいが、その遥か上を行く笹島さんのせいで霞んでしまっているのも事実。だが、それを口にするのは失礼極まりないと思うのだが……。
「でな、お前たちに聞きたいのはな、同じクラスにいる三河のことなんだ」
ここで本題へ。
「あいつは天性の女たらしでな、半径5m以内に入ると抱かれること待ったなしだ!」
この人は何を言っているのだろう?
単に三河君ディスり?
「そ、それってどんな女の人でもっスか?」
「いい質問だなチンピラ」
今どきチンピラって……死語だと思うけど。
それに千賀君のことは先ほどまで茶髪って呼んでたような?
「女なら年齢関係なしだ。新生児から紀寿を超えた老婆もさることながら、犬猫などの動物まで何でもありだ!」
えらい言われ様だな。確かに三河君は女性にモテる。だからと言って、その発想は無かった。
「かわい子ちゃんとマジメちゃんも三河と一泊したんだろ? なら既に妊娠してると思うぞ」
いやいやご冗談を。
何気なく笹島さんのほうへ顔を向け、その表情へ視線を送ると……。
「…………」
マジか!?
瞼を閉じ頬を紅く染めるその姿は、五平先輩の言葉を完全に肯定。
んなワケあるか!
その場には僕達も一緒にいたぞ?
そんな時間は全くと言っていい程なかったはずだ!
「ご愁傷様だな」
ニヤリと笑う五平先輩に僕と千賀君は完全敗北。否定どころか何も言い返すことが出来ない。そもそも彼女が三河君と何をしようが口出しする権利もない。
「だいたいあの三河ってヤツはな、この僕が好きになる女を……あの……その……いや、次々とだな……」
口の動きが急に悪くなる五平先輩。よく見ると顔全体から凄い量の汗が出ている……いや噴き出した?
しかも彼の視線は僕達ではなく、少しだけ上の方へと注がれている。
「三河……いや、三河君が……」
まるで何かへ怯えるように、あれほど饒舌だったのが言葉もつまりだし、遂にはブルブルと小刻みに震えはじめた。
「ほほう、三河ねぇ……」
微かに香る香ばしい匂いと三河君の名を呼ぶ声へ反応し、僕達は全員顔を後ろへと向ける。
つまりそこは五平先輩の視線と同じ場所。
そしてその場には彼の顔を引きつらせる要因が佇んでいた。
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