第三十歩
騒ぎの朝食会も終わり、後片付けも全て終えた僕達は、一旦部屋へ戻ると荷物をまとめて再びリビングへと集合。とはいえ帰宅時間にはまだ少し余裕があった。
「ちょっと僕は向こうのロッジへ行くね。ジジイと今度いつ会えるか分かんないんで挨拶して来るよ」
「私も社長とこの後のお話がありますから彼と一緒に行きますね」
こうしてこちらのロッジには僕達高校生組が取り残された。
「はぁぁぁー! なんかドっと疲れが出てきた気がする」
「ふぅ、まさか幽霊をこの目で見る日が来るなんて……人生って面白いですね」
「…………」
千賀君と伊良湖委員長が溜息をつく中、一人思い耽る笹島さん。一体何を考えているのだろうか?
「ねぇ皆さん。今日の出来事は秘密にしませんか?」
「え? どう言うことなんですか笹島さん?」
「ヤキさんのことや三河君のこと。彼は普通の男子生徒として接してほしいと望んでいたからそうしてあげましょうってことです」
なる程、経済界の大物が友人にいる設定など日常生活では邪魔にしかならないというワケか。それに集るハイエナを未然に防ごうと笹島さんはそう言いたいのだな。
「本当に三河君を思ってのことですか? 私利私欲の為では?」
伊良湖委員長は笹島さんに疑問を感じたのか、疑り深い目で見つめながら問い質す。
「…………」
ダウト!
沈黙はイエスと同等の意味を成す。
「私はずーっと疑問に思ってたんですけど、笹島さん昨日三河君とお風呂場へ行きましたよね? 髪の毛を乾かされていたってことは、一緒にお風呂へはいったんではないですか?」
{ギクッ!}
なぜか僕がドキッとした。
「ちょっと耳貸して委員長さん」
笹島さんは意味ありげにそう言うと、なにやら女子二人はヒソヒソ話を始めた。美女二人の内緒話は男にとって非常に興味のそそるもの。しかしそれが三河君の話となれば僕と千賀君は蚊帳の外。
「なぁ熱田よ、三河と俺達って何が違うんだろうな? ルックスは俺のが勝ってると思うんだけどな」
いや、それ以外はきっと全敗だと思うけど。
そもそもルックスもビミョーと思われ……。
「僕もあまり彼を知らないけど、今回の一泊旅行でハッキリ分かったことがあるよ。三河君はなんだか男らしいんだよ。なにがどうって説明はしづらいんだけれど、女子はそれを敏感に受け止めてると思うんだ。それにあの偉い大人たちに平然と対応する姿を見れば僕とて感心、いや尊敬せざるを得ないもの」
「あ、それ俺も少し分かるわー。三河って偉い人相手でも遜ったりしないのな。俺なんかビビっちまって……」
遜るどころか他の一般人と同じ扱いをしている様にも見えた気がする。天下の豊川自動車社長を本人がいる前でジジイと呼んだりしてたし。
「ねぇ、ちょっといい?」
三河君の話題で盛り上がり始めた僕と千賀君を遮る美声。それは既に僕(と千賀君)の失恋が確定した憧れの笹島さん。
「みんなもっと三河君のことを知りたいと思わない? この二日間だけでも色々な発見があったでしょ。修学旅行も縁あって同じ班となるのだから協力し合って、より彼へと近づきましょうよ。得する事はあっても絶対損はしないと思うし」
大賛成!
三河君などどうでもいい。肝心なのは笹島さんと協力し合えるこの一点に尽きる。そもそも反対する理由が見当たらない。千賀君と伊良湖委員長はオマケとでも考えればいい。……と千賀君も思ってそうだな。
「じゃあ皆さん、手を重ねてくださいな」
僕達四人は中心に右手を差し出し重ね合わせると、伊良湖委員長の掛け声のもと全員同時にこう叫んだ。
「がんばろー!」
「おーっ!」
結局笹島さんと三河君のお風呂話は有耶無耶にされてしまったのであった。
なんかモヤモヤするなぁ……。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます