第二十七歩
「じゃあおやすみなさい」
結局笹島さんが黙ったままとなり、疑惑がより深まってしまった。それ以降会話もあまり弾まなくなると、誰が言いだした訳でもなく、一人、また一人とロッジにある自分の部屋へと戻って行く。
そして僕は……
「ほら三河君、寝るんだったら自分の寝袋の中で寝なよ!」
案の定三河君を運ぶのは僕の役目となり、それこそお姫様抱っこでぜぇぜぇはぁはぁロッジの中二階へ。
「僕は自分の部屋へ戻るからね。んじゃおやすみ三河君」
グースカ眠る三河君を寝袋の中へ放り込むと、漸く一人の時間を迎えることができた。
「風呂に入るのも面倒だな? このまま寝るか」
ゴロンとベッドへ横たわり、意味も無く部屋の壁をじっと見ていると、集中力が増したのか様々な生活音が耳へと入る。その一つであるシャワー音が聞こえるに、誰かは備え付けの風呂へと入っているのが容易に想像できた。
裏手には露天風呂があるのだが、わざわざそこまで行く体力も気力もないといったところか。
「早起きしたら明日入るとするかな。なんだか今日は色々あり過ぎて疲れたな。でも結構楽しかったかも」
そう、本日の出来事は僕の生涯における楽しい事ベスト5へ確実に入るであろう。こんな感じで女性と接するだなんて昨年までの僕ならば思いもよらなかった。
これも全て三河君のおかげに他ならない。認めたくないけど。
そして僕は知らないうちに眠ってしまった。
―― 丑の刻 ――
「ギャァァァァァァァァァァッ!」
突然響く誰かの悲鳴!
それは鈍感な僕でも瞬時に目を覚ますぐらい大きく、すぐさまベッドから飛び起きた。
{バタン!}
不思議とこの時、怖いとか恐ろしい以前に何が起きたかの確認が一番の優先順位だったらしく、何の躊躇いもないまま扉を開けて部屋の外へ。
「こ、これはいったいなんなんだ!?」
カオスとはこんな場面を指すのではなかろうか?
これ程の騒ぎにもかかわらず、中二階の寝袋でぐうぐう眠る三河君。その両隣で笹島さんと伊良湖委員長が倒れている。千賀君に至っては部屋から半身出たままの気絶らしい。
「うわあぁぁぁぁぁっ!」
またしても悲鳴が!
あれは常世田さんか?
間違いなく一階からだ!
{ドタドタドタ}
慌てて階段を駆け下りると、リビングの中央で常世田さんが料理用お玉を手にしてなにかに抵抗するべく振り回していた。
「どうしたの常世田さん! 気をしっかり持って!」
僕には訳が分からなかった。なぜなら常世田さんは一人で暴れているからだ。見ての通り相手がいないのである。
「近寄らないでえぇぇぇっ!」
それでも間違いなく彼女は何かが見えていると断言できる。第三者の僕から見ても、その瞳は確実に何かを捉えて離さないのが分かる。
「あれ?」
暫く常世田さんの一人芝居を見ていると、目が慣れたのか、あるものが見え始めた。
それは彼女へ纏わりつく白い靄のようなもの。
更に目を絞って神経を集中すると、今度はそれが人のようにも。
{トントントン}
緊迫したなか、今度は誰かが階段を下りてくる音が!
「ヒイィィィッ!」
ビビった僕は堪らず大声を上げてしまった。
チキンとでもなんでも呼んでくれ!
本当に怖かったんだから!
「ふあぁーあ……」
欠伸と共に登場したのは……なんと三河君!?
先ほどまでグースカ寝ていたと思ったが?
「おい、それぐらいにしな」
「へ?」
三河君は一階へ到着するなり常世田さんへ向かってそう言った。正確には常世田さんの方向に向かってだ。
そしてこの後僕は驚愕することとなる。
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