第二十五歩
「あーあ、やりすぎなんだよまったくもう」
三河君はブツブツ呟きながら意識を失った常世田さんをお姫様抱っこ。彼女の泊まる予定の部屋まで優しく丁寧に運んでいく。
「ったくもう、汗でぐっしょり。ちょっと着替えさせるからライブ手伝って。他の皆は夜ご飯の用意しておいてよ。ある程度は合成が準備していたと思うから、向こうのバンガロー前にある大きな木のテーブルへ用意してもらえるかな? 夜はおっさんさん達も一緒だから大変だと思うけど頼むよ」
「分かりました。んじゃ私達は今から向こうへ移動しましょうか」
僕達三人は三河君の言いつけ通り夕食の準備に取り掛かる為、古屋さんたちが本日宿泊する予定のロッジへ向かう。そう、忠犬のように……。
「ククク、そりゃ大変だったね熱田君。それと千賀君に伊良湖さんもね。三河君に近づくとはそういうことだよ。まったく退屈させてくれないから君達が少し羨ましいね」
夕食の準備は僕達だけではなく、古屋さんたちゴルフ組も手伝ってくれたから思いのほかスムーズに事が運んだ。
そして用意が全て整ったころ、見計らったかのようにあの男がやってきた。
「ご苦労諸君。ほうほう、据え膳ですな? 僕と一緒でラッキーだなライブ!」
「あ……う、うん」
あれれ?
なんだか笹島さんの様子が変だぞ?
見るからに顔が真っ赤っ赤だし?
「あれだろ三河君、笹島さんの前で倒れた常世田さんの介抱してあげたんだろ?」
「うん。そりゃあのまま放っておけないでしょ?」
「笹島さんには刺激が強すぎたのかもね? どうせ体の隅々まで丁寧に拭いてあげたんでしょ?」
「なんだよおっさんさん、まるで誰かに説明しているかのような喋り方だね? まぁ全部当たってるんだけど」
古屋さんは僕達へ向かってパチリとウインクをした。”君達の知りたかったのはコレだろ?”と言わんばかりに。
「それにしても少年にはウチの社員が世話になってばかりだな。代表してお礼を言わせて貰うよ」
「そう思うんなら家にいる二匹のさかったメス犬を引き取ってもらえませんかね? どこぞのウエーゲイロホテルで働くチビッ子みたく頭がパーならなんとかなるけど、小糸さんと愛ちゃんは賢すぎるから……はぁ、思い出しただけで萎えちゃうなぁもう」
「だからこうして頭を下げているだろう? ささ、そんなところで突っ立っておらんと一緒に食べようではないか? わっはっは!」
「チェッ! なんか上手く誤魔化されたな。これだから出来る大人は……ブツブツ」
流石の三河君でもこの場にいる大人たちの手にかかれば赤子とまでは言わないも、敵わない模様。
「ところで三河君、君はウェーゲイロホテルと関係があるのかね?」
今度はもう一人の大人である比津真さんが三河君へ話し掛けた。
「関係どころか長持社長の手によって我が家へくノ一が送り込まれてるんだよね。コイツがまぁクセもんで……ハァ、手を焼いてるんですよね」
「こんな場所で長持の話が出てくるとは思わなんだな。その話しぶりから相当仲がいいようだが……」
次から次に出てくる超大物の名前。田舎に住む一高校生でも一度はどこかで耳にしたはず。
「あ、そうか。ジャパンリアル鉄道東海ってことはジャパンリアル鉄道中部ホテルズとは同系列別会社になるんだね。もしかして長持社長よりも立場上? だったらあのおっちゃんに言っといて! いつか借りは返すってね!」
その借りが金銭的なことなのか、それともお世話になったお礼的なものなのか、或は任侠の世界であるようなやられた借りなのかはこの時の僕には知る由もなかった。
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