第二十二歩
「ちょっとお風呂借りるね!」
常世田さんに聞いたところ、このロッジには大きくないものの、ちょっとした露天風呂が備わっているとのこと。少し離れた同じ作りの古屋さんたちが使用しているロッジにもやはり備わっているそうだ。
「もしかして三河君と笹島さん一緒に入るのかな?」
「そんなわけないだろ? なー熱田、お前もそう思うだろ?」
普通ならば僕とて千賀君と同じ答えとなる。だが、相手はあの理解不能を地で行く三河君、僕達の予想などこれまで何度でも上回った。
「ちょっと合成手伝って! 他の皆はリビングで待ってて!」
それでも少し驚かされたことがある。笹島さんの顔色を見てからの行動はコバエの回避能力よりも素早く、生命を優先する救命士の如く迅速な行動には舌を巻くほど。
そして彼等がお風呂に向かってから十数分が過ぎた頃、一つのアクションがおきた。
「キャアアァァァァァァァァァァッ!」
けたたましくロッジ内へと響き渡る女性の悲鳴。それが常世田さんのものだと分かると、彼女には申し訳ないがホッとした。
「な、なんだ!? ちょっと熱田、見て来いよ?」
「なに言ってるんだよ千賀君! みんなで行くんだよ!」
あまりの悲鳴にビビりの僕達は状況確認へ行くの躊躇い、お前がお前がと二の足を踏む。そんな押し問答をしていると、お風呂場へ続く渡りから常世田さんが飛び出してきた。……半裸で。
「うわあぁぁぁぁぁんっ!」
「ちょ、ちょっとどうしたんですか?」
セクシーなパンツを一枚履いただけの悩ましい姿で泣きながら伊良湖委員長へと抱き着く常世田さん。こんな状況でも僕や千賀君のほうには来ないんだと少し残念な気分に。
「早くなにか羽織って下さい! ここには男子もいるんですから!」
時既に遅し。僕と千賀君のくりくりおめめは常世田さんの小梅ちゃんに釘付け。幸せいっぱいとっても得した気分!
「千賀君も熱田君もサイテー! そんなんだから笹島さんに振られるんですよ!」
「!」
出会ってから今日まで大人しくて可愛らしい印象だった伊良湖委員長。それが嫌悪感満載の顔で僕達を詰る。
「大人の女性が身なりにも構わず泣きじゃくってるんですよ? このことから余程のことがあったんだろうと想像できるはず! それをあなた方は彼女の胸を凝視しながら股間にテント張るだなんて……本当にサイテーねっ!」
何も言い返せない僕と千賀君。なぜなら全て事実だから。
「お、おう、悪かったよ。で、俺達はなにをすればいい?」
千賀君は我に返ると、直ぐフォローに回る。やはり陽キャ、陰キャの僕とは根本が違う。
「その上着を貸してもらえますか?」
千賀君は着ている薄手のジャケットを脱ぐと、伊良湖委員長に手渡した。
彼女はそれを常世田さんに着せると、目で千賀君へ合図を送る。
「おい熱田も手伝えよ!」
「あ……う、うん、ごめん」
いつまでも泣きじゃくる常世田さんを落ち着かせるためにも一旦ソファーへ運ぼうとの結論に至った模様。捨て身の人間は実際の体重よりもはるかに重く感じる為、僕にヘルプを申し出る。
「ここは俺と伊良湖委員長に任せておけよ。熱田は風呂場へ行って常世田さんの着ていた物を持って来てくれ」
「うんわかったよ」
こうして僕はなんの躊躇も疑いもないままに、一人露天風呂へと向かうのであった。
中にはまだ、三河君と笹島さんが入っているのをすっかり忘れたまま……。
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