第ニ十歩

三河君に対する様々な疑惑を残したまま、楽しいバーベキューも終了。後片付けも一段落し、テーブルを囲んで雑談する中、その問題児がこんな提案を。


 「今からそこの川で魚を釣ろう。今晩は焚き木を囲んでワイルドな塩焼きを食べるんだ」


 勘弁してよ三河君、現代っ子の僕は生魚なんて触れないぞ?

 チラリと千賀君を見ると、彼もこちらを見て互いに首をかしげる。早速の仲間発見だ。

 それに女性陣だってドン引きでは?


 「賛成! 私お父さんとよくキャンプ行くからアウトドア系全般得意です」


 伊良湖委員長が乗っかった!?

 だけど我らが笹島さんならば僕らの気持ちを理解してくれるのではなかろうか?


 「なにライブ? 料理は得意だけれど生きた魚を触ったことがないだって? 僕に任しときなよ。同じ得意分野を共有する同士として手取り足取りねっちょり教えてあげるから」


 グヌヌ、あの男は苦手なものが無いのか?

 同じ男としてあまりにも劣る自分が恥ずかしくて仕方がない。


 「なぁ熱田、お前釣りなんてしたことあんの? 俺、生き物系はちょっと……」


 「僕だって同じだよ。これっぽっちの興味すらないし」


 「だよなー。でも三河って凄いよな。いつの間にかアイツのペースになってるし、不思議とそれに対して疑問や否定的な感情もわかないんだよ。それは女子も一緒なんだろうな。アイツに魅かれるのも分かるよなー」


 「なんだよ千賀君、そんな弱気でどうすんのさ? そんなんだと三河君にこの世の女性全て取られてしまうかもだよ?」


 「だったらどうすんだよ? 既にこの場の女子の心は三河のルアーに食いついちゃってるんだぞ?」


 「盗むんだよ彼の女殺しテクを。少なくとも今の彼は女性からのアプロ―チに全く靡く様子がないし。だから彼のスリップストリームに張り付いて全てをスチールするんだ!」


 「なるほど! ある意味コバンザメ作戦だな!」


 別におこぼれを頂こうってわけではないが、今は上げ足を取る発言しても意味がない。寧ろ関係が悪化して唯一の仲間を失いかねない。それらを踏まえ、突っ込みたい気持ちをググっと押さえながら僕は彼と固い握手を交わす。


 「さてと、皆さんと一緒にワイワイキャッキャしたいのはやまやまですが、私は社長方がいつ戻ってきてもいいように準備がありますから、ここで一旦失礼させて頂きますね。もし何か御用がおありならば向こう側のバンガローに居ますので」


 と、ここで突然常世田さんが席を立った。

 それを見て直ぐに彼女へ声を掛ける三河君。絶えず辺りに気を配っているのがよく分かる。


 「ご苦労様だね合成。あ、そうだ! すぐ連絡が出来るように合成の携帯番号教えて」


 「!」


 陰キャが総がかりでも破ることのできない女性に対するホットライン防御を容易く崩す三河君に唖然。躊躇の欠片もないんだな。


 早速おこぼれに肖った千賀君がニヤリとイヤラシイ笑みを浮かべる。エロがっぱとはこういった顔を言うのだろうか。ちょっとキモイ。


 「番号ならアナタ様に……」


 「僕携帯持ってないからダメだよ。あとライブと委員長とキューちゃんもね。全方向でいつでも連絡が取れるよう今のうちに交換しておいて。万が一が起こってからでは遅いから連絡は密にね」


 あれ?

 携帯ならば三河君も持っていたはず。確かガラケーだったような?


 「ねぇ熱田君、番号言うから私にかけてきてもらってもいい?」


 「!」


 笹島さんからの催促に、ニヤリとイヤラシイ笑みを浮かべる僕。エロがっぱとはこういった……。


 


 

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