第十九歩


 「うえぇぇぇーいっ!」


 ドラム缶程の大きさもあるバーベキューコンロを囲んで一同大燥ぎ。特に三河君などビールジョッキを片手に……ビール!?


 「ね、ねぇ千賀君、三河君が手に持ってるのってノンアルコールだよね?」


 「…………」


 彼は僕の目を見ると、視線を別の方向へむけ顎をクイッと一回だけ持ち上げた。

 同じ場所へ目を向けると、そこにはサーバーらしきものが。ホースを辿って行った先にあるのは、どこぞの飲食店で見かけた小さなアルミ樽。その横には思いっきり生ビールと……。ダメじゃん!

 

 (だから……あんま飲まないって。そんときはヤキが……)


 あれ?

 三河君の独り言?

 小声で聞き取りにくいも、まるで見えない誰かと会話をしているようだな?


 「………」


 何気に笹島さんに目を向けると、彼女はそんな三河君をガン見していた。


 「なんだよライブ、僕をジッとみてさ……まさか”好きです! 付き合ってください”とか言うんじゃないだろうな?」


 「!」


 おいおい三河君、そんな戯言はこの僕……の隣にいる千賀君が許さないぞ?

 冗談はその達者な口先だけにしなよ?


 「えっ! いえ、あのそうじゃなく……いえ、そうかも……です」


 「!!!」


 なんてこった!

 遂に本人の口からYesの答えが!

 

 {ガチャン! バチャッ!}


 「きゃっ!」


 「うわっ!」


 その時突然テーブルの上にあったコップが倒れた。

 誰かが触ったのでもなし、しかも風があるわけでもなくその倒れ方は不自然極まる。運の悪いことに近くで座っていた委員長と常世田さん、そして笹島さんの三人に中身がかかってしまった。女性のみ全員に……。


 「あーあ、ライブが冗談を真に受けるからキューちゃんの背後霊がびっくりしてポルターガイスト現象を起こしちゃったじゃないか」


 「えっ! 僕!? いや、関係ないし、背後霊なんて知らないし」


 「でもキューちゃんはライブのことが好きなんでしょ?」


 「あ、うん……あっ! な、なに言ってんだよ三河君! ふざけないでよ!」


 「ワハハハハ! キューちゃんが白状したぞ! いや、告白したの間違いか!?」


 僕は撃沈した。

 奈落の底より深く心が沈んでいく。

 恥ずかしさを通り越して真っ白となってしまった。


 「熱田お前もか! 同士よ、これからは何事も二人で協力しあおう。でも、抜け駆けは無しの方向で宜しく」


 「うぅぅ……せ、せんがぁくぅぅぅんっ! グズッ!」


 場の雰囲気が壊れるのを恐れ、茶化しながら僕の肩を叩く千賀君に正直救われた。冗談っぽく振る舞ったおかげで誤魔化せたと思う。

 ……なにを誤魔化せたかって?

 そんなの三河君に告白した笹島さんと、その彼女へ僕の気持ちがバラされたことだ! うわあぁぁぁぁぁんっ!


 「ワハハ! なんだか楽しいや! でもライブ、その返事はノーだよ。それにきっとその方がライブの為にもなるだろうしね」


 「あ、えーっと……そうですか。なんだか胸の奥に大きなおもりを入れられた感じです。結構ショックかもです」


 「大丈夫だよ。別にその想いを失くさなければダメって訳じゃないと思うよ。気持ちを切り替えて、友達として付き合えばいいだけだしね。初めのうちは蟠りもあるだろうけど、時と共に記憶も薄れるだろうしね。或は些細な切っ掛けから想いが逆転して、今度は相手がライブにホレるかもね。僕だってもしかしたら……なんちゃって」


 {バシャッ!}


 入れ直して直ぐ、またしても倒れるコップ。不思議なのは今回笹島さんのみ唯一の被害者。ってか、狙ったかのピンポイントで彼女へナイスショット!


 「ワ、ワハハ! ライブは災難の宝石箱だね!」


 冗談を言う三河君だったが、不思議と額には大量の汗が!

 しかも激スベってるし……。

 それにしても男だけ誰も被害に遭わないのはナゼカシラ?

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