第十八歩
「さて、着きましたよみなさん」
「うわぁおっ!」
車内から見る景色に一同大歓喜。手入れされた庭木に一面の芝絨毯。そして透明度抜群な清流をバックに堂々と佇む大きな大きな丸太小屋。それはまるで、外国の自然保護地区にあるロッジのウサギ小屋バージョンってなところか。
「あれ? もう着いたんですか?」
大人しと思っていた伊良湖委員長はどうやら寝ていたとみえる。それもその筈、あのオッパイ話から既に1時間が経過、正直僕も結構眠い。
「…………」
笹島さんと千賀君も寝てこそいないものの、あれ以降口を閉ざしたまま。そりゃ言葉を失いますわな。
「ではまず荷物を置きに行きましょう。部屋は個室となってますからお好きな場所へどうぞ」
「うゎお!」
扉を開けて一歩中へ入ると、ここはメープル国かと思う程のゴージャスな作りに思わず声が出てしまった。100坪はあろうかと思われる吹き抜けのリビング中心には、得体の知れない動物の皮で作られた大きなソファーが一枚板で作られた一辺二メートルはあろうかと思われる高級感バリバリのテーブル四方を囲む。
入り口横には原木の味を生かした手摺の階段があり、中二階を経てその上にある本二階へと続く。そこには等間隔に並ぶ扉があることから、複数の部屋があるのだろうことがこの位置からでも確認できた。
「僕ベッドじゃなくてもいいよ。寝袋持って来たからそこで寝る」
「それは構いませんよ。他の皆さまの邪魔になるような場所は避けてね」
驚いたことに三河君は中二階で寝ると言い出した。確かにロフト風で寝袋ならば大人が横並びで五、六人は寝れるだろう程には広い。彼はベッドで寝るのが嫌いなのだろうか?
そして部屋へ案内されると、
「中はこんな感じですね」
「うわーっ!」
思わず誰もが喜びの声を上げた。但し、三河君を除いて。
畳十畳はあるだろう部屋の窓からの眺望は正しく自然の織り成すフォトグラフ。ベッドは南国特有のなんとかキルトに包まれたキングサイズが2台もある。扉は勿論鍵付きだ。しかも嬉しいことに、各部屋バストイレ完全完備で夜中も安心間違いなし!
ブラボー!
「君等自分で部屋決められないみたいだから僕が決めてあげるよ。階段前がイケメンでその隣がキューちゃんね。そしてその隣を監視役も兼ねて合成な。んで委員長に一番奥がライブ」
「ねぇ三河君、なぜ女性陣が奥なんですか?」
「やだなぁ委員長、そんなの決まってるじゃん。飢えた狼が子羊を襲わないためだよ」
この男は自分を棚に上げて僕達を狼だとほざく。冗談じゃない、そんな度胸があれば彼女の一人や二人とっくにいるっつーの!
「あ、念のために言っとくけど、狼は女性陣ね。僕ら男が子羊だから」
「!」
なにを言い出すんだこの男は!?
それが事実ならばどれほど嬉しいだろうか!
女性からアプローチがあるならば言葉下手な僕はどんなに助かることか!
「…………」
あれ?
てっきり冗談かと思った三河君の言葉に彼女達はワザとらしく視線を逸らした。しかも年齢一回り程離れているであろう常世田さんまでもが!
「お、おい熱田、これって……」
「見ての通りだよ。僕にもよく分からないけど、三河君がモテモテだってのだけはハッキリ分かったよ。悲しき事実だね千賀君」
「だけどさ、俺の勘違いかもしれないけど、三河ってあんまそーゆーのに興味ないって感じじゃね? 俺達と彼女達をくっつけようとしたりさ」
「そこなんだよね。彼の意図がサッパリ分かんない。楽しくやりたいってのは分かるんだけど……普通、僕や千賀君のようなごく一般の男子高生なら楽しいイコール彼女とイチャイチャだよね?」
「だよな。もしかすると三河は友達として男女隔たり無く遊びたいって感じなのかな?」
「仮にそうだとして部屋ではなくロフトで寝る意味は? 友達としてなら彼の性格上、僕や千賀君の部屋へと強引に相部屋しようとするのでは? 持参するのを見るに、最初から寝袋で寝るつもりだったみたいだし」
「うーむ……」
三河君の理解不能な行動を目の当たりにし、型落ちのローグレードCPUを搭載した僕と千賀君のコンピューターはハングアップ寸前。そしてこの後、僕達の常識を覆す彼の行動で熱暴走するハメとなるのであった。
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