第十六歩
「君達はこちらの車に乗って」
常世田さんが僕達を誘導したのは、とても高級感が漂うVIP専用のような車……の隣で申し訳なさそうに停車しているバン。 ……バン!?
「あ、ジジィ嫌がらせか? この車で僕らに営業して来いとでも?」
「お、その手があったな! 少年ならどこぞのマダムが幾らでも買ってくれるかもな」
僕が思うよりも先に三河君が営業車を皮肉った。しかもトヨカワ社長を相手にだ。社長は社長で直ぐ切り返すも、その意味が今一つ分からない三河君を除いた僕達高校生チーム。マダムって誰?
「失礼だなアンタは。この車はバンではなくワゴンだし、そもそも我社の最高責任者に対する態度がなってないわ!」
三河君に厳しくあたる常世田さん。確かに彼は一言多いかも。
「ささみんな、後ろのドアから順次乗ってね。真ん中と最後尾に二人ずつ座って。それとアンタは助手席だ!」
「なんでだよ!」
結局常世田さんに言われた通りの座席へ全員が着席。助手席は三河君で真ん中右側が僕、その横が笹島さん。そして最後尾右側が千賀君とその隣へ伊良湖委員長と、ここまで来る車とほぼ同じ配列の座席順になった。ブラボー!
「それでは豊川社長、私共は先にバンガローでバーベキューなどをしておりますので、いつでもお越しくださいませ」
「そうだよジジィ! 久しぶりの旧友再会であまりハメを外し過ぎないようにねー! まぁ、おっさんさんもいるんで滅多な事にはなんないと思うけど」
「コラッ! 目上の人を敬う言い方が出来ないのかアンタは!」
三河君と常世田さんの夫婦漫才にお偉いさま方もご満悦。後ろに座る僕達も笑いを堪えるのに必死だったのは言うまでもない。
―― 車内にて ――
「ねぇアナタ三河君だっけ? 作製支社長と新罠副支社長のお二人とはどんな関係なの?」
ここからは常世田さんと三河君の会話をお楽しみください。
なんちゃって。僕達も三河君の秘密に興味があったから、息を殺して聞き耳をたて、目的地到着までの時間、終始情報収集に徹するのであった。
「ちょっと聞いてるの? あのお二人も以前は秘書だったのよ。しかもとても優秀で社内では評判だったわ。何かと比べられて私は迷惑してんのよ! わかる?」
「そんなん知るか! そもそも合成も秘書に任命されたってことはそれなりに優秀だったんでしょ? もっと精進しなはれ」
「偉そうに言うなっ! それと私の名前は聖子だ! 何回も言わせるなっ!」
「ヒィッ!」
激しい落雷。三河君にはいい薬かも。それにしてもトヨカワ自動車の支社長に副支社長って……彼の人脈はどうなってんの?
「そりゃさ、支社を任されるような人物だから優秀でしょうよ? だからってなにも比べなくてもいいじゃない? それも仕事云々よりも見てくれをよ? 営業課の男共が残念な目で私を見てくんのよ!」
「確かに性格が残念……」
「黙れ! 余計な口を開く者にはお仕置きだ!」
常世田さんは三河君の両頬を摘まんで思いっきり引っ張る。苦痛に歪む彼の顔を見るとなんだか胸がスッと……あれ? 確かいま運転中で……!?
「うわあぁぁぁぁぁぁぁ! 前見ろ前っ! 合成テメーフザケンナ!」
苦痛に歪んでいたのではなく、迫りくる危機に慄いた顔だったようだ。勿論僕達も全員が魂の幽体離脱一歩手前。本当にふざけんなよ常世田さん!
「あんだらあぁぁぁぁっ! 今度運転中にハンドルを放すなんて愚かな行為をすれば合成の鼻の穴へねりからしねじ込んでやるから覚悟しとけえぇぇぇっ!」
「は、はいすみませんっ!」
今度は逆に三河君が大噴火。大凡高校生とは思えぬ迫力に常世田さんもうっかり反省の言葉を口にする。とはいえ、これまで全部三河君のせいなんですけどね……。
それにしても目的地まで後どれぐらいなのだろうか?
この空気に僕達はどこまで耐えられるのだろうか?
三河君の秘密には興味アリアリだけど、正直もう大人しくしていてとも思った。
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