第十五歩
「爆睡のところ申し訳ないけど、到着だよみんな」
高速道路を車で走ること数時間、ここまでの道のりは長かった。なんてことは無く、シートに身を委ねただけで目が覚めたら現場に到着といったリアルどこでもドア状態。
「ふあぁぁぁぁ~」
欠伸隊長の千賀君を筆頭に、誰もが夢うつつってな感じのおぼつかない足で車外へ。するとそこには見知らぬ男性二人と一人の女性が立っていた。
「お疲れさん」
結構な年配の男性が僕達に向かってそう言うと、今度はこちら側にいる三河君の口から一瞬で目の覚めるような大声での返答が飛び出した。
「豊川のじいさまだ! 久しぶりだねっ!」
やや?
このおじいちゃん、どこかで見た事あるぞ?
さてどこだっけな?
「あ、あの人って、もしかしてトヨカワ自動車の社長さんでは? ほら、最近は自社コマーシャルにも出演してる……」
答えは優等生の伊良湖委員長から。
「マジで!?」
素で驚く千賀君だが、それは僕や伊良湖委員長、そして笹島さんも同じ。トヨカワ自動車といえば現在は車の販売のみならず、金融や保険に建築までその経営は多岐にわたる。この国に住む人間でトヨカワ自動車を知らない者はモグリと言える程、
しかもそのグループ企業を束ねる社長さまが今僕達の目の前におられるのだ!
これに驚かずして何に驚けと言うのだ?
「僕はゴルフなんてやんないからね! ジジイ連中だけで楽しんでね」
「おいおい少年や、久しぶりの再会だというのに素っ気ないじゃないか?」
「小糸さんや愛ちゃんに僕が毎日どれだけ悩まされているかわかる?」
それにしても凄いな三河君は。天下のトヨカワ自動車社長をジジイ呼ばわりするだなんて。いや、とんでもないバカか?
「小糸さんに愛ちゃん? もしかして
三河君と豊川社長の会話へ割り込む一人の女性。僕の勝手な偏見だが、サラサラストレートのロングヘア―に銀縁の長方形な眼鏡と、見た目だけならテンプレ通りの優秀なオールドミスとの感じを受ける。それは置いといても相当な美人だぞ?
「誰? ジジィのコレ?」
今どきおっさんでも使わない小指を立てたジェスチャー。三河君は恥ずかしげも無くやって見せるのだが、それを見て彼以外の一同ドン引き。
「滅多な事言わないでおくれよ少年! 今の時代、どこで誰の目が光ってるとも限らないんだから!」
「ワハハハ! 豊川のジイさまでもスキャンダルは怖いんだねー」
「えっと、三河君でしたっけ? それぐらいで勘弁して下さらない?」
僕達高校生チームは会話に混ざるどころか、登場人物のあまりの大物ぶりに只唖然とするだけであった。
「だからアンタ誰? 愛ちゃんや小糸さんの上司?」
先程からチラホラ名前が出てくる”
「私は豊川社長秘書の
「豊田合成? なんだそりゃ」
「常世田聖子だ! もっかい言うぞ? と・よ・だ・せ・い・こだ! 二度と間違えんな!」
「ヒェッ!」
一瞬でブチぎれる秘書様は、まるでエサを取り上げられたトイプードル。見た目可愛らしいが、牙剥き出しで敵を威嚇するその姿は醜い悪魔そのもの。
「他の皆もよろしくね。で、君達はこれからこのゴルフコースとは別の場所へ移動します」
三河君以外の高校生には牙を収納して芸能人バリの爽やかな白い歯を見せる。既に正体を知ってしまった僕達はどんな反応をすればいいのやら。
「ハハハ! 豊川さんの言った通りだね。非常に愉快だ」
そして豊川社長と一緒にいたもう一人の男性がこれでもかと大笑い。なんとなーくだが、彼もまたどこかで見たような気がする。
「そうだ三河君、紹介を忘れてたよ。豊川さんの隣にいるこの人はジャパンリアル鉄道東海の
「へー、ゴルフねぇ。なんだか策略の臭いがするな。もうすぐリニアが開通するらしいし、ジジイとなんか悪だくみしている臭いがプンプンとするや」
三河君の言っている意味が分からない僕でも、その言葉を耳にしたこの場にいる男性陣が全員ピクッとなったのは、きっと図星で動揺したんだなーってことだけはなんとなく理解出来たのであった。
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