第十四歩
「ところでおっさんさん、確か今日ってあのサーキット近くのログハウスへ行くんだよね?」
「いや、あそこがあるのは例の三英傑の一人が生誕した場所でしょ。今回はお茶県の奥にあるワイン造りが有名な葡萄県だよ」
「マジで!? サーキット自体お茶県にあると勘違いしてたし、今日もそこへ行くと思ってたよ」
三河君は結構なオトボケさんのようだ。そもそも三英傑の一人が生まれた場所は僕達が住む街からそれほど遠くない。それこそ早朝未明から出かける理由もない。
しかし葡萄県となれば話は別。地図上での位置こそ近いが、陸から行くならば縦断するアルプスを避けて通らなければならず、電車でも車でも遠まわりを強いられるのだ。お茶県ルートとおやき県ルートがあるようだ。
「お茶県ルートを使うって言ったのを勘違いしちゃったんだね三河君は」
「そうかも。だけどそれならさ、バンガローとか温泉はないの?」
マジですか?
それなら今回は何処へ泊るの?
「いや、同じような建物があるから大丈夫だよ。豊川さんの会社はあちらこちらに保養施設を持ってるし」
「あのジジイのことだからなんか罠があるんと違う?
どうやら豊川さんって人が働いている会社の施設を使うようだな。その人をジジイと呼ぶ三河君も相当親密な様子。それにしても愛ちゃんに小糸さんって誰だろう。名前からするに女性だとは思うけど。
「今回も豊川さんがお手伝いの社員を呼んだらしいよ。俺達がいないときに何かあったら困るし、足もいるだろうって」
「えー!? もう愛ちゃんや小糸さんみたいのは勘弁してよね! そりゃおっさんさん達の目的がゴルフだってのは知ってたけどさ」
「だったら一緒にコース周るかい? クラブなら予備があると思うけど」
「ノンノンノンだよおっさんさん。僕達ティーンエイジャーだよ? ゴルフって年齢制限があってジジイ若しくはジジイ予備軍しかやっちゃいけないって法律で定められてるんでしょ?」
「おいおい、酷いな三河君は」
古屋さんはゴルフをする為に自然豊かな場所へ向かうのか。寄生虫の三河君率いる僕達が宿主と行動を共にするのは当然ちゃあ当然か。
「僕はね、みんなとバーベキューを食べたり川で釣りしたりするんだ。だから今回はおっさんさんや豊川のじっちゃんと遊ぶのはパス。たまにはいいでしょ?」
「ククク、そうだね。たまにはいいかもね。たまには」
とても楽しそうに談笑する二人に、なぜか僕……いや、僕達もホッコリ。友人とはこうありたいもんだなと思ったのは、間違いなく僕だけではなかっただろう。
「ところでおっさんさん、ゴルフは豊川のジジィと二人だけでするの?」
「いや、他にもいるよー。三河君の知らない人だから紹介するよ」
「いいよー別に。おっさんさんは”子供チーム”なんて気にかけないで”迫りくる死に怯えるチーム”で楽しくやんなよ」
少し安心した。もし三河君が古屋さんと行動を共にしたとなれば僕達四人はギスギスしたであろう。それ程親しい間柄ではない僕達を繋ぎ止めていたのは間違いなく彼なのだから。
「オッケーオッケー分かったよ三河君。あまり干渉しないと約束するよ」
「あ、でも財布としての干渉なら大歓迎だよおっさんさん」
三河君はニカッと白い歯を見せ、古屋さんに向かってウインクしながらそう言った。その姿が一瞬ダンディーな男性と被って見えたのはきっと気のせいだったのだろうと思うようにした。
そしてこの後食事を終えた僕達一行は、サービスエリアを出ると葡萄県までの数時間を監禁された車内で過ごすのであった。
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