第十三歩
「さて、朝食でも食べようか」
ハンドルを握るダンディーな男性からの気の利いた提案。サービスエリアで停車したのは、てっきりトイレストップのためだとばかり思っていた。
「あ、レストランはもう開いてるみたいだよ。あそこでいいじゃん」
「おいおい三河君、やけに積極的だね? それとも奢ってくれるのかい?」
「今回は邪魔者がいないから楽しみなんだよね! それと前もって言っておくけど僕、財布の中1500円しか入ってないから」
やけに親密そうな二人だが、友達と呼ぶには幾分歳が離れすぎている。確か三河君は知り合いと言っていたけど……それにしても邪魔者って誰?
「もしかしてですけど、あの男性って我が校で有名な二年生のおばさん生徒と対の”おっさん生徒”ではないですか? とはいえ、彼は落第していないから現在三年生のはずですけど」
「俺もそんな気がする。どこかで見た事ある気がするなーって思ったけど、きっとそれは校内だったんじゃないかなって。熱田も見た事あるだろ?」
三河君とダンディーな男性から少し間を開けて歩く僕達はあれやこれやと憶測を巡らせる。学年が違うせいか僕にはイマイチピンとこない。
「でも素敵な方ですね。外観もさることながら、振舞が紳士的っていうか」
「あら、笹島さんはあんな感じの人が好みなんですか? それなら雑兵の如く次から次へと湧く同級生の告白を蹴散らすのも納得ですね」
酷すぎるぞ伊良湖委員長!
その雑兵の中にはここにいる千賀君も含まれるのだぞ!?
これ以降、僕と千賀君はヒアリング専用マシンと化した。
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「いっただきまーっす!」
サービスエリア内レストランにて各自好みのメニューをオーダー。サンドウィッチやトーストにサラダなど、軽めの食事が大多数を占める中、三河君が選んだのはなんとハンバーグ定食。朝っぱらからそこそこヘビーだな。
「ほら三河君、皆がキョトンとしてるよ。朝からそんなモン食べるから」
「いつもだとハンバーグを注文しても取られまくった挙句、結局食べられないもんね。でも今日は大丈夫だもん。アイツ等誰一人としてこの場にいないし」
「ククク、そうだね。出がけには一瞬戸惑ったけど、まさかその為の五平君だっただなんて……」
「ハン! よく言うよ? 絶対こうなると知ってたくせに!」
確かに朝からハンバーグは誰もが驚いただろう。しかし僕達がキョトンとしているのはその事ではなく、寧ろおっさんさんと呼ばれるアナタ。
誰もが疑惑や興味を抱く中、核心を突くどストレートな質問が二人へ投げかけられる。
それは伊良湖委員業や千賀君ではなく、無論僕でもない。
「あの……お二人はどういったご関係で?」
微笑の天使である笹島さんの口から出たのである。
そんなアナタは僕のハートをナイスキャッチ!
「なんだよライブ、おっさんさんに興味があんの? その気があるなら間を取り持ってあげるけど……」
「おいおいおい! 冗談はその女性関係だけにしてくれよ三河君!? それでなくとも
矢田さんと仙堂さんの名前に聞き覚えがあるぞ? 確か一昨年、赤楚見高裏サイトでこっそり行われたミスコンの一位二位ではないか? 赤楚見高へ入学する前のサイト下調べで見つけて、キレイだけど悲しげで陰のある二人に一瞬心を奪われそうになった記憶がある。言うまでも無いが僕の赤楚見高受験を後押しした理由でもある。
先程の行動を見る限り、悪口が殆ど書かれて無かったのは、たぶんバレた時の報復を恐れてだろう……。
「プププ―! いい気味だねおっさんさん! それでこそ多少は僕の気持ちも理解できるんと違う?」
「……勘弁してよ」
僕達4人は二人の会話が不思議だった。そこからは親子のような、或は兄弟みたいにも、且つ友人や職場の仲間にも似たホンワカと和やかな仲の良さが伝わる。
「えっと、笹島さんだったかな? 俺は君達と同じ高校に通う三年生の
先程の態度から一変して僕達に自己紹介をする彼は紳士そのもの。不思議と三河君はその間ありえないほどに大人しかった。自分に不利益な情報が飛び出すのではと不安に駆られているのか、拾ったばかりの子猫宛ら古屋さんをジッと見つめている。
「大丈夫だよ」
そして古屋さんはニカッと爽やかな笑顔で三河君へウインクを投げた。
なにが大丈夫なのかは二人以外サッパリ謎だったけれど。
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