第八歩


 瞬く間に時間は過ぎ去り一番楽しみな昼休みの到来。

 そして僕は今、光り輝く三つの宝石と共に同じテーブルを囲んでいる。なんちゃって。


 「へー、伊良湖委員長はジモッピーじゃないんだ」


 「そうなんですよ治村さん。中学卒業を境にこの町へと越して来たんです」


 談笑を交えながらの楽しいお弁当タイム。僕と伊良湖委員長が机をクルリと反転させ、後ろの三河君や笹島さんとくっつけただけで出来上がる簡易4人テーブルを皆で囲む。治村さんのみどこからか拝借した椅子を伊良湖委員長と笹島さんの向かい合った机の接面横に置き、太々しくど真ん中を陣取る。

 そんな麗しの笹島さんとその仲間たちに囲まれた普通男二人へクラス男子の目が釘付け……違うな、目から釘が飛び出して今にも僕と三河君をぶっ刺しそうと言ったほうが当てはまりそう。

 だが、それもそれほど悪い気もしない。寧ろ注目を浴びて気分は若干ハイに。

 人生16年目にして初めてとなる女子との食事に感極まる男、熱田久二ここにありけり。


 「ねぇ、三河君のお弁当って美味しそうなだけでなく、とても彩りがキレイね。お母さんは相当お料理上手って……」


 「母さん? 冗談はよし子さんだよライブ。これ全部僕の手作りなんだから。高校生にもなって母親に弁当を作ってもらえるほど家は甘くないんだから! そもそも作ってもらった憶えすらないよ!」


 「!」


 これには三河君本人と、朝その情報を耳にした僕、そして伊良湖委員長以外の全員が俯いたのであった。驚きを恥ずかしさが上回ったが為の行動。とは言っても笹島さんと治村さんの二人だけなのだが。

 そんな居心地の悪い静寂が続く中、それを打ち破るヒーローの出現。


 「おーい三河! 一緒に弁当食おうぜーっ!」


 「あっひがし!」


 隣のクラス、海道かいどう君登場。

 遠慮を知らないのか、それとも恥知らずなのか他のクラスへズカズカと土足で入り込むその図々しさ。ちょっとは見習いたいかも。


 「早速友達出来たんか三河? しかも女のが多いって……お前は相変わらずだよなー。って、熱田に治村と笹島じゃないか? それと……?」


 「あ、私このクラスで委員長を務める伊良湖美咲と言います。宜しくねひがしさん」


 「いやいや伊良湖委員長、彼は海道東かいどうあずま君って言うんだよ。”ひがし”と呼ぶのはきっと三河君だけだと思うよ」


 「あ、なるほど! 私を美咲っちと愛称で呼ぶように、彼を”ひがし”って呼んでるんですね」


 「そうそう。ところで……久しぶりだね海道君」


 これには流石の三河君も驚いた様子で、絵にかいたようなハトが豆鉄砲を喰らったかの顔をしている。


 「お前らみんな知り合いなの? 僕だけ仲間外れ?」


 「大丈夫ですよ三河君。少なからずその中に私は入っていないと思いますよ」


 「同情なんていらないよ美咲っち。それにこんなことぐらいで僕はへこんだりしないし……」


 そんな三河君の瞳に薄っすらと光る液体が。


 「ワハハ! そりゃそうだ。三河は毎日想像を絶する悲惨な目に遭っているからな! その実俺は羨ましいけど」


 「煩いな東は! それよりそんなところで突っ立ってると邪魔なんだよ! どこかから椅子借りてメーの隣にでも座れよな」


 海道君は言われたままに空いている近くの椅子へ手を伸ばすと、なんの躊躇いも無く治村さんの隣へと場所を構えた。


 {ボン!}


 なんとなく治村さんから爆発音が聞こえたような……。


 「海道君は僕達を知っていたんだ。毎日寝てばかりだったからてっきり知らないものだと……」


 「そりゃこんな感じで面と向かって話をするのは初めてだけどよ、三年も同じ中学となりゃそれなりにだな。それに治村と笹島は有名人だったし」


 「けっ、お前だって有名人だっただろ東。生臭くてな! はたしてその臭いは魚からだけなんですかねーっだ!」


 「なんだとぉ三河あぁっ! そんな憎まれ口叩くヤツは弁当取り上げの刑だ! お前の手作り弁当食っちゃるから覚悟しろっ!」


 今度は海道君とイチャイチャを始める三河君。本当に仲がいいんだな。それに三河君の弁当が本人の手作りだってのも知っているようだし。


 「ほれ笹島! お前も三河の弁当食べてやれ! 悔しいけどコイツの料理は超うめぇから!」


 海道君は三河君の箸を取り上げ、弁当箱の中から金色に輝く物体をぶっ刺すと、今度はそれを笹島さんのお上品なお口へと捩じり込む。あわわ……。


 「!」


 「な、うめぇだろ? 俺が許すから他のも全部食べちまってもいいぜ! どうせ家へ帰るとナイローブレッドのメロンパンが山ほどあるに違いないしな! それまで腹ペコで暮らせ!」


 「ふざけんなフナムシ! お前の手にしてる購買のパンをよこせっ!」


 「…………」


 海道君の動きが急に止まった。まるで電源の供給が途絶えたロボットみたいに。一体どうしたのだろうか?


 「マジックスペル”フナムシ”を発動したからね。これで暫らく東は機能停止するだろうよ」


 三河君は海道君の持っていたパンを口へ運ぶと、モグモグしながらそう言った。不思議と海道君はこの後数十分間ピクリとも動くことが無かったのであった。


 それにしてもマジックスペルってなんだ?

 フナムシって?


 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る