第七歩
「おはよう三河君。どうしたの?」
おかしな空気が立ち込める中、憧れの君御登場。神々が創りし大自然の絶景よりも遥かに美しい笹島さんが登校してきた。
それにしても三河君だけに挨拶って酷すぎでは?
「あー、おはようライブ。いやさ、このキューちゃんと美咲っちが付き合っていて……」
「わあぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」
「きゃあぁぁぁぁぁぁぁっ!」
僕と伊良湖委員長の二人は合唱団員をも唸らせる絶妙なハモりを奏でる。但し悲鳴で。それにしても藪から棒に何を言いだすんだこのあんぽんたんは!?
「ね、仲いいでしょ? 僕はキューちゃんと美咲っちお似合いだと思うんだよねー」
「あ、お二人はそういった仲なんです?」
「違うよ!」
「違います!」
僕と伊良湖委員長の二人は笹島さんに対し、この後数十分かけて説明させられるハメとなったのは言うまでもない。
「三河君って不思議ですよね? 私こんな感じで男子生徒と交流するの初めてですよ」
「私も。いつも芽衣ちゃんが一緒だからその……」
伊良湖委員長と笹島さんの二人に異性としての壁を全く感じさせない三河君に山ほど嫉妬させられるも、それ以上に恩も感じた。こんな僕が彼女達の会話へと混じることが出来ているのだから。
「で、そのメーは来るの遅いんだね。もしかして朝弱いの?」
「あら? 三河君は治村さんに興味があるんですか?」
その問いに黙ってしまったのは三河君ではなく、なんと笹島さんのほう。まさかとは思うが……。
そして言うまでもなく僕は最初から現在までほぼ会話らしい会話をしていない。
会話に交じるのと会話をするとのハードルの違いは比べるまでもなく後者の方がぶっちぎりに高いのだよ。察してくれ!
「僕あーいった感じのハッキリしたヤツ結構好きなんだよね。友達になったらきっと面白いだろうし」
今ハッキリ好きだと言ったぞ?
この男の底が知れない。
「おーっほっほっほ! なにやら私を好きな輩がこの中にいるんですって?」
「あっ!」
「あっ!」
「おはよう」
「あぁっ!?」
ご本人の登場。噂をすればなんとやらだ。
「僕のこと? そうだね。メ―はノリがいいから友達にはうってつけだね。それと東が‥‥…」
「わあぁぁぁぁぁぁぁっ! わあぁぁぁぁぁぁぁっ!」
急に取り乱し始めた治村さん。一体どうした?
「そ、その話は後でゆっくりとしようよ三河。それでこの件は手を打つとしよう」
「え? だってメーって東がス……」
「まいった! ゴメン! 謝るからそれ以上は勘弁してよ三河!」
三河君と治村さんのやり取りを見るに、最早友達以外の何者でもなかった。いや、弟に弱みを握られた姉って感じ?
「三河君って私より芽衣ちゃんと仲が良いかも。ちょっとだけ嫉妬」
「笹島さんはそう感じました? 私は少し違うかもです。確かに仲が良いけど、三河君が治村さんに持っている感情ってきっとラブではなくライクですよ」
この間も三河治村ペアはギャアギャアとやり合っている。……違うな? 正確には三河サタンが生贄治村さんに対して何らかの取引を持ち掛けている?
「ほらね、二人の姿を見てもわかるように、あの輪に入りたいのであれば笹島さんも嫉妬なんてちっぽけな感情を捨てて同じ土俵に立てばいいのではないですかね? 勿論私はそのつもりですよ」
「そうね。私、伊良湖さんとは仲良くなれそうな気がするかも。今更だけれどこれからも宜しくね」
なんてことだ。対三河戦略で伊良湖笹島同盟が結ばれてしまった。それだけではない。今現在三河君とじゃれている治村さんも当然その連立に加わるであろう。しかも、そこに僕の存在場所はあるのだろうかが非常に気になるところ。いや、存在自体が許されるのだろうか。
「でね皆さん、一月後に修学旅行があるのご存知ですよね?」
昨日全校集会で校長がそのような話をしていたのを思い出す。確か行先は関西だったような……。
「どうやら一組三人の班編成を行うらしいんですよ。私委員長だから先生に直接言われたんですけど、近々発表があると思います。そこで熱田君の出番です。三河君を同じ班に誘ってください。多少強引にでも」
「えぇっ!?」
この僕が言い放った”えぇっ!?”の意味は三河君を班に誘うことではない。きっと伊良湖委員長はこちらの意味で受け取ったであろう。
しかし実際は彼女達の作戦内容にまだ僕が含まれているんだとの嬉しさからつい口にしてしまった驚きの”えぇっ!?”が本質である。
「このお話は私達三人だけの秘密にしましょうね。宜しく伊良湖さん。そして宜しく熱田君」
笹島さんに名前を呼ばれた嬉しさから、気分は今すぐにでも成層圏を飛び出してしまいそうであった。
笹島さんマジ天使!
伊良湖委員長マジ仏!
サンキューみっかわ!
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