第三歩
「そんな怒んないでよ。カワイイ顔が台無しだよ? 見てごらん、他の男子生徒がドン引きしてるじゃん」
三河君の言葉に僕達はクラス全体を見まわした。男子生徒どころか他の女子生徒も全てこちらを注視している。当然ドン引きした目で。
「二人は仲のいい友達みたいだけど、見た目が綺麗だから苦労も多いでしょ? まぁ、メーは拳に物言わせて納めそうだけどね」
「綺麗って……もういいわ。怒る気も失せたし。でもこれだけは言っておく! もし伊歩を傷つけるようなことがあったらただじゃ置かないからね!」
なんとあの武神である治村芽衣が振り上げた拳を下ろした!
いや、正確には下ろさせられたのだこの男によって!
恐るべし三河安成!
「ところで三河は何クラスだったの? 私達の校舎では見かけなかったようだけど?」
治村さんは僕の隣の席へ勝手に腰を下ろし、何事も無かったかのようにサラリと皆の会話へ加わった。二人とはこれまでの数年間で数えるだけしか言葉を交わしたことがなかったのに、まるで奇跡でも起きたかのよう。
「僕1組だったんだ。だから向こうの校舎だったんだよ。不思議とこちらの校舎には以前同じクラスだったヤツが殆どいないんだよね」
「あー、だったら知らないのは当然かもね。よく考えたら私達だってこちら側の校舎にいる5組から8組全ての顔を覚えてる訳ではないもんね。まして違う校舎なんて……」
それにしてもこの三河って男はなんなんだ。フラッと現れたかと思えば出会って数秒で僕が数年かけても成し得なかった彼女達とのコミュニケーションを簡単にとってしまうし。
「1組だったらあの有名な三越先生のクラスだったんじゃないの? あの先生って見た目小さくて可愛らしいけど怒ると鬼神のごとく暴れ回るって本当?」
「え……あぁ……う、うん。いや、そんなことないと思うよー。アハ、アハハ」
治村さんの質問に対し、目を逸らして言葉に詰まる三河君の様子を見るに、それは真実だと物語っている。三越先生には絶対逆らわないでおこう。
「あとさー、1組ってことは
「えっ? メーって
僕も同じ中学だったから知っているが、海道君とは商店街で魚屋を経営している海道鮮魚店の跡取り息子で
当然僕は知っているだけで、決して友人と呼べるような仲ではない。
「ちょ、そ、そんなんじゃないわよ! まぁ、カッコイイなぁとは思わなくもないけど……」
真っ赤な顔でプチ否定の治村さん。満更でもない感じ。
そんな二人のやり取りをじっと見つめる笹島さんにホッコリ。
いや、よく見ると三河君をガン見している?
「ちょっと伊歩からも何か言ってよねー! なんか恥ずかしい……ん?」
どうやら治村さんも笹島さんが三河君を凝視しているのに気づいたようだ。
「珍しいねー! 伊歩が男を見つめるだなんて。もしかして興味あるとか?」
マジですか?
これまで幾人もの男子生徒を爆破解体してきたあの笹島伊歩が一人の男子生徒に興味津々だって?
どこからどう見ても僕以上に只の普通な一男子生徒にしか見えないぞ?
「いやいやいや、別に僕なんか見てないでしょライブは。視線が後方の窓に向いてるし」
言われてみれは顔こそ三河君へ向いているが、その視線の先は彼の肩越しに外へと向かっている。言い換えるならば三河君の右肩少し上を見つめているかにも見て取れる。
「え、いえ別に……」
「ホントだー。外見てたんだねー。或は三河の肩に居座る水子の霊でも見てたりしてー? なんたって霊感を持ってるもんね伊歩は」
冗談交じりに三河君をディスる治村さん。だが、三河君を見るに、これが強ち冗談とも言えなかったようである。
「み……水子? じょ、冗談はやめてよねメー! そ、そんなんいる訳ないじゃんか!? アハ、アハハハハ!」
動揺が隠せない三河君。その歳で水子の霊ってアンタ……恐ろしいな。そりゃ初見の女性相手でもグイグイと行けるわけだ。つか、笹島さんって霊感があったんだ。彼のおかげでこれまで知らなかった様々な情報が記憶と言う名の僕の書庫へと納められる。良くも悪くも三河安成という軽薄そうな男の出現でこの先色々ありそうだなぁ。
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