第二歩
「おはよう」
「グッモーニン!」
クラス内のあちらこちらで交わされる様々な形態の挨拶。それ等は仲のいい者同士が互いの存在を知らしめる朝のコミュニケーション。
数少ない友人すら校舎ごと別の教室へと離れてしまった僕には無縁の賜物。決して友人がいないわけではない。
そもそもクラス替え第一日目にこれだけ飛び交う挨拶のほうが謎でさえある。もしかしてこの教室に知り合いがいないのは僕だけなのだろうか?
「おはよう、僕三河。後ろの席なんで宜しく」
そんな中、僕の席を通り過ぎる手前で立ち止まり、徐に自己紹介をしてきた男子生徒。見たところ可もなく不可もないといった僕と同類の臭いがした。
訂正、多少僕よりは整っているかな。
彼の席は窓際一番最後尾で僕はその一つ前。
実はここで衝撃的な事実が判明する。
通り過ぎながらの挨拶だった為、僕の反応は少し遅れた。体を捩じり、半身後部座席へと振り返りながら挨拶のお返し。
「おはよう、僕は熱田久二。宜しく……あっ!」
思わず挨拶以外の声を上げてしまった。なぜなら彼の横、つまり僕の斜め後ろにあの笹島伊歩が座っていたからだ。
「何を驚いているのさ? 久二……キューちゃんでいい?」
「キューって……まぁ別にいいけど」
一瞬の動揺で彼女に自身の気持ちを悟られたのではないかと焦ったが、彼の口にしたおかしなあだ名でどうやら有耶無耶となった模様。しかもそれだけではない。
「フフ」
「お、笑顔が美しいねー。きっとモテるんだろうね。僕三河安成、これから宜しくねー」
彼女の笑いに救われた感がある。そして驚いたのは彼、三河安成がサラッと言い放った彼女への言葉。普通照れくさくてあんなこと簡単には言えない。
「私の名前は笹島伊歩。前に座る熱田君とは去年も同じクラスだったの。あと、出身中学も一緒なの」
覚えていてくれた。興味すら抱かれていないどころか、僕の存在すら知らないと思っていたのに。
「マジで!? ライブとキューちゃん幼馴染かなんか!?」
「ライブ!?」×2
聞き慣れないワードにハモる僕と笹島さんの二人。
「いや、伊歩って名前だからライブって‥…」
いやいやいや、ご冗談でしょ三河君?
どんな親しい御友人でもそんなフザケタあだ名で呼ぶ者は居なかったですよ?
「ちょ、ちょっと三河君! それは彼女に失礼かと。後、僕達はクラスが一緒だっただけで別にそれほど親しい間柄ではないから!」
「大否定かよ!? あーあ、そんな風に否定かまされると好意あるものも速攻敵意に代わるね! せっかく美人とお近づきになれそうだったのに残念な人だなキューちゃんは」
はぁ!?
コイツはなんなん?
出会って早々僕をコケにし、更には彼女へ悪印象を植え付けようってか?
{ドン!}
「ちょっとアンタ達!」
そんな時だった。
三河の机を激しく叩く拳が一同の目に映る。
「熱田ちょっと伊歩に馴れ馴れしくない? 勘違いも甚だしいわ!」
そこには額に血管を浮き出させて怒りに震える治村芽衣の姿があった。ガーディアンの登場である。
「ちょ、ちょっと芽衣、落ち着いて……」
宥めようとする笹島さんに対し、火に油を注ごうとするバカモノが居た。
勿論三河安成大うつけ様だ。
「そうだよメー。なんだか知らないけど何興奮してんの? もしかして生……」
「生ってなんだよ? その後何て言おうとしたんだアンタは!?」
治村芽衣は左腕を大きく上へと振り上げる。となればその後は言わずとも知れたお決まりの結果が。
{パッチーン!}
「あいたーっ!」
張り飛ばされた。
なぜだか僕、熱田久二が。
「避けんなバカーッ!」
「いやいやいや、冗談はメーの顔だけにして…」
{パンパンパーン!}
「ぎゃあぁぁぁぁぁっ!」
全て僕の顔面にヒットした。
ここまでいくともうワザとだろう。
後ろから襟首を掴み、僕を盾代わりとしている三河安成然り、明らかにその盾となる僕の顔面目掛けて平手を打ちおろしている治村芽衣もまた不自然極まりないのだから。
恐るべし三河安成と治村芽衣のツータッグ。
この先も二人には悩まされるんだろうなきっと……。
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