第一章 2年生

第一歩

 僕の名前は熱田久二あつたきゅうじ

 赤楚見高校2年になったばかりのそこら辺りにゴロゴロ存在するごくごく普通の男子生徒。


 世間一般この高校はあまり程度が宜しくないと悪い意味で名を馳せている。噂レベルではあるが、共学ゆえ男女交際において乱れまくっているらしい。

 ところが、いざ入学してみて分かることだが学力においては驚くほどにレベルが高いのだ。


 僕と同じ中学出身で当時校内ナンバー1であった笹島伊歩ささしまいぶが昨年度のテストにおいて一度も一位を取れなかったのがその根拠。毎テスト事に上位三名のみ名前が発表されるのだが、時にはそこに名前が載らないこともあるほどである。

 

 そして不思議なことに、毎回一位の名前は公表されず空白のみで、以前誰かがそれを先生に問いただしたところ、『謎の力が働いてそうなっているのだからこれ以上首を突っ込むな。命が惜しいのなら疑問を排除しろ!』などと訳の分からない答えが返ってきたそうだ。命って……。


 しかもこの話は武闘派である1組の三越みつこし先生が口にしたそうだから強ち冗談でもないようだ。僕は7組だったから校舎も違い、それほど面識も無かったのだが、向うで彼女の奇行は有名だったらしい。別名”爆弾岩”と呼ばれ、一度怒りの導火線に火がつけば大爆発待ったなしだったのだとか。こうしてこの件には誰も口を出さなくなった。


 僕のお世話になった7組はそういった話題になるような事件など一切なく、平和そのもの。なによりも憧れである笹島伊歩と同じクラスだったからむしろ幸せに過ごせた1年であった。彼女は頭がいいだけではなく、お淑やかで美しいのだ。まるで大和撫子とは彼女の為にあるような言葉ではなかろうか。そんな女性に憧れない男など男としてなにか欠落しているに違いないと思える程。


 勿論憧れているだけで告白などは一切していない。僕みたいな陰キャには当たり前だが、そんな勇気など持ち合わせていないから。何が悲しくて勝てない勝負の舞台に上がろうか。遠くから見ているだけで幸せなのだ。


 昨年だけで何人が告白して撃沈しただろう。直接告白して断られたのもそうだが、それ以上に彼女の近くには鉄壁の防御柵である治村芽衣ちむらめいが立ちはだかっているのだ。


 彼女も同じ中学出身だから知っているのだが、容姿は端麗とまでいかなくともかなり整っている。美しいとの言葉よりもカワイイとの言葉が当てはまる。同じ美人でも笹島伊歩とは真逆のタイプ。


 問題はその中身である。男勝りの言動にチャキチャキの江戸っ子をも凌駕する竹を割りまくったような性格の彼女はイエスノーが非常にはっきりして且つ優秀不断でうだうだな輩を一切受け入れないのだ。しかもなんらかの武道を習っているらしいその体術は敵意を向ける者全てに向けられ何人をも病院送りにしたのだとか。

 まぁ、彼女ならやりかねないかな。


 当然こちらも何人かに告白されていたが、それは彼女を知らない他のクラスの男子生徒から。噂ではあるが、彼等は撃沈どころか心に酷い傷を負ったのだとか。なんとな~く想像できるのが悲しい。


 結局のところ、僕みたいに遠くから眺めているのが一番の正解なのであろう。事実、当時同じクラスの男子生徒はほぼそうして過ごしたのだから。告白してしまったが為、一部テンション激下げのヤツもいたのだが。


 そして嬉しいことに、なんと今年も僕は笹島伊歩と同じクラスなのである。まぁ、正確にはコバンザメの治村芽衣も一緒なのだが……。


 こうしてまたしても幸せな学校生活が送れると安堵したのも束の間、この先ハリケーン級の、いやそれを超えるドタバタな大騒動に巻き込まれるのが日常になるとは、まさかこの時夢にも思わない僕であった。たった一人の男子生徒のせいで……。

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