IN THE CRYSTAL〜インザクリスタル〜

レイフロ


『IN THE CRYSTAL~インザクリスタル~』


【ジャンル:狂気系、シリアス】

【所要時間:45分程度】


【人物紹介】

No Name♂

巨大な氷山の中に埋まっていた全長5mほどのクリスタル。中には黒いもやが渦巻いている。

声は男性。カスミとだけ話す。


カスミ♀

クリスタルの研究者。秀才。クリスタルの声を聞き、唯一会話をしている人間。


フミヒト♂

クリスタルの研究者。カスミとは同期で微かに想いを寄せている。恋愛面では鈍感。


ヒヨリ♀

クリスタルの研究者。カスミとフミヒトの後輩で、明るくて素直。フミヒトに好意を持っている。




↓生声劇等でご使用の際の張り付け用

――――――――

『IN THE CRYSTAL~インザクリスタル~』

作:レイフロ

No Name♂:

カスミ♀:

ヒヨリ♀:

フミヒト♂&N:

――――――――



⚠今後のレイフロの台本の更新、新作の公開につきましては、下記HPで行いますので、ぜひご覧ください!

https://reifuro12daihon.amebaownd.com/




以下、台本です。

――――――――――――――――



N:

昨今さっこんいちじるしい異常気象の中、地球温暖化により、南極にある巨大な氷山ひょうざんが崩壊した。

調査したところ、氷山の内部から全長5メートルを超える巨大なクリスタルが発見される。時代としては、マンモスが生息していた頃から存在していると思われた。

クリスタルは非常に透明度が高く、空気に触れると増殖するという特性を持っていた。

だが、その中心部には黒いもやのようなものがゆっくりと渦巻いており、それが何なのかについては現在研究が進んでいる。




カスミ:

この小説…辞書みたいに分厚いくせに、半分まで読み進めても主人公が出てこないわ。


No Name:

どうしてその人物が主人公だと思ったんだい?


カスミ:

だって…この人物が毎回出てくるシリーズ物の小説だって帯に書いてあったもの。


No Name:

登場人物はそれぞれが主人公であり、それぞれが誰かの脇役なんだよ。


カスミ:

わかってる。だから私は私の人生の主人公であり、あなたの人生においては脇役だわ。


No Name:

自分以外の人と関わらなければ、脇役にはなれない。ただただ主人公なだけ。


カスミ:

それが悪いことかしら?


No Name:

どうかな…。でも関わった人の分だけいくつでも脇役になれるんだよ?楽しくないかい?


カスミ:

私は、あなたの脇役になりたいわ…。


No Name:

…この話は止めよう。


カスミ:

どうして?


No Name:

君が私に寄せている感情は、畏敬いけいのそれだったろう?でも最近はどうも特別な感情も交じっている気がするんだ。


カスミ:

…っ私は…


No Name:

私は人間ではない。クリスタルに囲まれた、ただの黒いもやだ…。私に向けられるには勿体もったいない感情だよ。



(SE:扉が開く音)


フミヒト:

カスミ、いつまでここにいるんだ、もう行こう。


カスミ:

待って、もう少しだけ!


フミヒト:

ダメだ。ここは空気が悪い。早く出るんだ。


カスミ:

ちょっ…引っ張らないでよ!


(SE:扉の閉まる音)


フミヒト:

…大丈夫か?泣きそうな顔をしてるぞ。


カスミ:

放っておいてよ。


フミヒト:

放っておけない!(手をつかむ)


カスミ:

ちょっと痛い!手を放して!


フミヒト:

いい加減目を覚ませ。アレは重要な研究材料であって人じゃない。本を読んでやるなんて、どうかしてるぞ!


カスミ:

でも実際に計器けいきには反応が出てるじゃない!ミステリーを読んだ時の反応が一番 顕著けんちょなの。このデータを見て!


フミヒト:

止めてくれ!君は優秀な研究者かもしれないけれど、アレを見つけてから明らかにオカシイ!


カスミ:

アレだなんて言わないで!彼は…!


フミヒト:

“彼”だって?!もう見ていられない!所長に言って君を担当から外してもらうよう進言しんげんする!


カスミ:

私は、クリスタルが原油の代用品になるという世紀の大発見したのよ?所長が担当を外すわけがないわ!


フミヒト:

俺は君が心配なんだ…。あのクリスタルの中にいる“何か”は、救世主なんかじゃない!もっと、邪悪な存在のような気がしてならないんだ。


カスミ:

彼の生み出すクリスタルは、上手く行けば次世代エネルギーになるわ!先月の実験で、ガソリンの1000分の1の量で車が動いたじゃない!


フミヒト:

確かにアレを活用出来れば、地球のエネルギー問題は解決する…。

だから俺たちはそのクリスタルを細々と採取していればいいんだ!あの黒いもやには触れるべきじゃない!


カスミ:

ねぇ、フミヒト、私たちは科学者なのよ?彼は黒い靄で、肉体はないかもしれないけれど生命体だわ!

だったら、解明しなくちゃ。何者か見極めて、対話出来るのであればするべきでしょう!?


フミヒト:

あっ、おい待てって!…はぁ…行っちまった。

透明な馬鹿デカいクリスタルの中で渦巻いている黒いもやの、どこが“彼”なんだよ…。


ヒヨリ:

カスミ先輩ってあやういですよねぇ。


フミヒト:

おわっ!なんだ、ヒヨリか、びっくりするだろ?


ヒヨリ:

カスミ先輩って真面目で研究熱心で、男なんか興味ないって感じで…あ、ディスってるわけじゃないですよ?あたしは科学者としてめちゃめちゃ尊敬してますから!


フミヒト:

(不機嫌そうに) それで?カスミの何が危ういんだよ。


ヒヨリ:

あたしが思うに、カスミ先輩は「絶対的な存在」に弱いんじゃないかと思うわけですよ。


フミヒト:

絶対的な存在ってなんだよ。まさか神だなんて言わないだろうなぁ?


ヒヨリ:

科学で何でも証明できちゃう天才だからこそ、どうあっても説明出来ない絶対的な存在に出会った時、コロッと傾倒けいとうしてしまうってわけです!


フミヒト:

確かにあの黒いもやは謎すぎるけど…。それにアレのことを“彼”って呼んでたし…。


ヒヨリ:

“彼”?!まじですかぁ?!それはヤバいですよ!傾倒けいとうするどころか恋までしちゃってるんじゃあ?!


フミヒト:

バッッカ!なんだってお前はそう「単純・極端・浅はか」なんだよ!


ヒヨリ:

そんな「美味い・安い・早い」みたいな言い方しないで下さいよ!あたしだって研究者なんですから、そこら辺の一般ピーポーより数十倍頭が切れるんですからねー!


フミヒト:

残念でした~。「頭が良い」ことと「馬鹿」は同居出来るんだぞ~?


ヒヨリ:

そんなこと言っていいんですかぁ?フミヒト先輩がカスミ先輩を好きだってこと、社内のイントラネットに書いちゃいますよぉ?


フミヒト:

はぁ?!お前の目玉は後頭部についてんのかぁ??

あいつは同期だから心配してるだけで…


ヒヨリ:

フミヒト先輩、知ってました~?「頭が良い」ことと「童貞」は同居出来るんですよぉ?フフフ♪


フミヒト:

おい、誰が童貞だ!!…チィ、逃げ足の速いやつめ…!


(一呼吸おいて)


ヒヨリ:

はぁ…。フミヒト先輩の馬鹿…全然あたしの気持ちには気づかないで、カスミ先輩のことばっか…。つっら…。




(間)




N:

カスミの研究により、クリスタルは、枯渇こかつ寸前の原油の代用品として広く世界に広まった。

その後も、原子力発電以上のエネルギーを安全に生み出すことにも成功。空気にさえ触れさせておけば延々と増殖するクリスタルに、人類はエネルギー源の全てを依存することとなった。

だが、クリスタルの中心部分にある黒いもやについては、その周りを取り囲むクリスタルが異常に硬く、採取することすら困難で、一向に調査は進んでいなかった。




No Name:

元気がないみたいだね。


カスミ:

…あなたは何者なの?


No Name:

さぁ、なんだろう?


カスミ:

どうして私としか喋ってくれないの?貴方に人格があるんだって、皆にもわかって欲しいのに。


No Name:

私は人間じゃないんだ。宇宙人扱いされても困るし、人々を混乱させるだけだよ。


カスミ:

例え人間じゃなかったとしても、意思疎通が出来るんだから…


No Name:

私の生み出すクリスタルは、新たなエネルギー資源になったんだろ?


カスミ:

そうよ、地球の救世主だわ!


No Name:

原油のように、クリスタルも枯渇するまで使いきるつもりかい?


カスミ:

そ、そんなことないわ!人類は、原油は永遠に湧き出るものだと誤解してしまった!そのことを教訓に今度は…!


No Name:

ふふ、すまない。いじわるを言ってしまったね。


カスミ:

お願いだから他の人とも話をして。そうしたらクリスタルを使わせてもらう代わりに、貴方の願いを叶えてあげることが出来るかもしれない!


No Name:

願い、か…。会いたい人ならいるよ。でも君たちにはどうする事も出来ない。


カスミ:

そうなの…。じゃあ他には?私たちにも何か出来ることがあれば…!平等な交渉がしたいのよ!


No Name:

交渉か…。仮に私が「クリスタルを取らないでくれ」と言ったとして、その要求は通ると思うかい?


カスミ:

取らないで欲しいの?


No Name:

いや、好きにしていい。私はただ流れに身を任せるだけだ。地球温暖化で氷が解けて、氷山の中から私が見つかってしまったのも、きっと、運命なのだろう。


カスミ:

人類からすれば、貴方の発見は神のおぼしよ。


No Name:

どうかな…。最初、私は誰とも話す気などなかった。でも何故かな…君とは話をしたいと思ったんだ。


カスミ:

ずっと光もない音もない氷山の中にいたから、きっと話し相手が欲しくなったのよ。


No Name:

誰でもいいわけじゃない。君なら私を解ってくれるかもしれないと直感的に感じたんだ。はは、特別な感情を持つなと言ったのは私の方なのに…すまない。(自嘲ぎみに笑う)


カスミ:

いいの…何だか嬉しいわ…。




(間)




ヒヨリ:

フミヒトせーんぱいっ!お疲れ様です、研究進んでますかー?


フミヒト:

まぁな。もう少しで、クリスタルを土壌どじょう改善の画期的な肥料に活用出来そうなんだ。これが上手く行けば、全陸地の25%を占める砂漠の問題が解消されるかもしれない!


ヒヨリ:

それは素敵ですね!完成すれば、食糧事情の問題も解消されて、貧困もなくなるかもー!


フミヒト:

はは、そう上手く行けばいいけどな。…でもカスミのようにはなかなか出来ないよ。


ヒヨリ:

いえ、上手く行きますよ!フミヒト先輩なら!


フミヒト:

何だ、今日は随分と優しいな。どうした?腹でも減ったか~?


ヒヨリ:

あ、あたしだってフミヒト先輩のこと応援してるんですよ?


フミヒト:

そっか。ありがとな、ヒヨリ。


ヒヨリ:

(照れながら) あ、ちょっ、頭撫でないで下さいよっ、子供じゃないんですからっ!


フミヒト:

はは、別に子ども扱いしてるわけじゃないさ。お前だってこの間のクリスタルのレポート、着眼点はすごくよかったと思うぞ?


ヒヨリ:

え…っそうですか?でも、結局却下されちゃいましたけど…。


フミヒト:

確かに詰めは甘かった。でもあの発想は俺にはなかったし、一生懸命プレゼンする姿はなかなか立派だったぞ!


ヒヨリ:

(小声で)ちゃんとあたしのことも見ててくれてたんだっ…。


フミヒト:

なんか言ったか?…ん?顔赤いぞ?熱でもあるんじゃないか?


ヒヨリ:

熱なんてありませ…あ、やっぱりあるかもしれません!

あの…フミヒト先輩、あたしのおでこ、ちょっと触ってみて貰えませんか…?


フミヒト:

え…?お、おう…



カスミ:

実験室でいちゃつくのは禁止よ?


フミヒト:

(動揺しながら)カスミっ!バーカ、違うっつーの。な?ヒヨリ?


ヒヨリ:

え…あ、はい…。


カスミ:

フーン?怪しいわねー?


フミヒト:

そ、そんなことより、さっき館内放送で所長がお前のこと呼び出してたぞ?いいのか?こんなところにいて。


カスミ:

えっ?ほんと?聞いてなかった…。


フミヒト:

大至急って言ってたぞ?


カスミ:

これから今日の分のクリスタルの採取をしなきゃいけなかったのに…。ヒヨリ、悪いけど代わりに採取お願い出来る?


ヒヨリ:

あ、はい…。いいですよ。


カスミ:

助かる!頼んだわねっ!


フミヒト:

カスミって時々抜けてるよなぁ。そういうとこがちょっと可愛いっていうか…。この前だってさぁ!


ヒヨリ:

あの!あたしクリスタルの採取しに行かなきゃなので。


フミヒト:

あぁ、そうだったな。すまん、手伝おうか?


ヒヨリ:

いえ!大丈夫です。フミヒト先輩は自分の研究頑張って下さい。


フミヒト:

そうか?わかった。採取の量間違えるなよ~?


ヒヨリ:

わ、わかってますよ!行ってきます!


フミヒト:

さてと、俺ももうひと頑張りしなきゃな…!




(間)




ヒヨリ:

危なくノロけ話聞かされるとこだった。せっかくいい感じだったのに…フミヒト先輩のバカ。

でも、カスミ先輩ももう少し空気読んでくれたっていいのに!…もしかしてわざと邪魔しにきた…?

ダメだダメだ!早く採取終わらせちゃおう。あーあ、あたしももっと研究用のクリスタル欲しいなぁ。


No Name:

クリスタルが欲しいのなら、あげようか?


ヒヨリ:

ふえあっ?!クリスタルが、話した?!

…っ嘘、コレに意思があるって話本当だったの?!あっ…ごめんなさい、コレだなんて…!


No Name:

ふふ、いいんだよ。私は見ての通りだたの黒い靄で、実体はないからね。


ヒヨリ:

良い声…イケメンの予感!


No Name:

“いけめん”が何かわからないけれど(苦笑)。でも褒められたのかな?ありがとう。


ヒヨリ:

すごい、頭に直接声が聞こえるみたい!

カスミ先輩は、あなたには意思があるって言ってましたが、もしかしていつもお話してたんですか?!


No Name:

あぁ。でもそのことで相談があるんだ。君は信用出来そうだし、とても聡明そうだ。


ヒヨリ:

え?そうですか?えへへ。

…あ、それで、カスミ先輩がどうかしたんですか?


No Name:

実は彼女、私には都合のいいことを言ってクリスタルを生み出させておいて、本当は私的してきなことにクリスタルを使用しているんだ。


ヒヨリ:

えっ!あなたに嘘をついてるってことですか?


No Name:

土壌どじょう改善のための肥料にクリスタルを使えば、世界の食糧事情を救えるから、研究用のクリスタルが欲しいと言っていたんだが、本当はオカシな薬を開発していたんだ。


ヒヨリ:

オカシな薬?

…え、しかも土壌改善の肥料って、フミヒト先輩の研究テーマなのに…!


No Name:

フミヒト?…あぁ、その人だ!彼女はそのフミヒトという人のことが好きで、開発した薬を毎日すこしずつコーヒーに混ぜていると言っていた。


ヒヨリ:

その薬を飲むとどうなっちゃうんですか?!


No Name:

詳しいことは教えてくれなかったが、脳がどうこうと言っていた…。もしかしたら彼を洗脳するつもりなのかもしれない。


ヒヨリ:

洗脳って…!本当にカスミ先輩がそんなことを言っていたんですか?!


No Name:

彼女は変わってしまったんだ…。

地球のエネルギー問題を解決したことで、自分が救世主になったと思い込んでしまっている。好きな男も手に入れて、その研究をも横取りするつもりなのかもしれない。


ヒヨリ:

そんな…!だって、あたしはてっきり、カスミ先輩はあなたに恋をしているのかと…。


No Name:

彼女にとって、私は結局ただの資源だったんだ。意思疎通が出来ることをいいことに、クリスタルを沢山搾取さくしゅされてしまった。もう疲れたよ…。


ヒヨリ:

酷い、こんなこと許せない!!所長に言わなきゃ!


No Name:

それは駄目だ。彼女は所長を始めとした権力者達にも薬を盛っている可能性が高い。

「無能どもに代わって自分が世界のエネルギー需要の実権を握る」と言っていたから…。


ヒヨリ:

あ、あたしは、どうしたら…!


No Name:

フミヒトくんや皆を助けたいかい?


ヒヨリ:

もちろんです!


No Name:

私が説得出来ればよかったんだが、ここから動けないからどうしても限界があってね…。やはり君に相談して正解だったよ。

…良い考えがあるんだ。私の言う通りにしてくれるね…?




(間)




カスミ:

お疲れ様。まだ残ってたの?


フミヒト:

まぁな。所長の用はなんだったんだ?


カスミ:

ガソリン、電気と来て、他にもクリスタルを活用出来ないのかって。


フミヒト:

強欲だよなぁ。


カスミ:

一旦休憩しない?はい、コーヒーのブラック。


フミヒト:

あぁ、いつも悪いな。


カスミ:

いいのよ。なんだかんだでフミヒトには世話になってるし。


フミヒト:

はは、何だよ急に。最近はコーヒーの差し入れも毎日のようにしてくれるし、怪しいなぁ?


カスミ:

人の親切は素直に受け取るものよ!


フミヒト:

そうだな。じゃあ遠慮なくいただきま…


ヒヨリ:

フミヒト先輩、それ飲んじゃダメです!


フミヒト:

お?怖い顔してどうした?お前も飲みたいなら…


ヒヨリ:

要りません。そんなけがらわしいもの。


カスミ:

汚らわしいってどういうこと?あなたもコーヒー好きだったじゃない。


ヒヨリ:

カスミ先輩…ひどいですよ、あたし、ホントに先輩のこと尊敬してたのにっ!

汚い手を使ってクリスタルを勝手に使った挙句、この研究所を乗っ取る気なんですか?!


カスミ:

え、ちょっと…何のことなの?!


ヒヨリ:

ねぇ?あたしにも怪しげな薬を飲ませたんじゃないでしょうねぇ?!

この間、お昼にコーヒー持ってきてくれましたよね?!あの時に盛ったんですかッ?!


フミヒト:

おいおい、落ち着けって!怪しげな薬って何だよ?


ヒヨリ:

(だんだんヒステリックに)

あたしの研究がなかなか進まないのも、上司に評価されないのもきっと変な薬のせい…!

はっ…!最近お化粧のノリが悪いのも?!

フミヒト先輩があたしの気持ちに全然気づいてくれないことだって!!

全部全部カスミ先輩が変な薬を盛ってあたしをおとしいれてるからでしょお!!!!!


フミヒト:

なに、言って…?


ヒヨリ:

あたしずっとフミヒト先輩のこと見てたのに…。気づかないわけないですよねぇ?それって全部あの女がクリスタルを変な薬に応用して、先輩の脳みそをいじくり回してたからなんだ!!みんな洗脳されてる!この女に!…許せないッッ!!


(SE:刺さる音)


カスミ:

ぐふっ…、…!ぇ゛…?


ヒヨリ:

カスミ先輩ずるいですよ…。あなたの望み通りになんてさせませんから…。


カスミ:

あ、…あ゛…?ナイフが、私の…お腹、に…ぐはっ


フミヒト:

やめろぉぉ!!


ヒヨリ:

(突き飛ばされる) あッ…!


フミヒト:

カスミっ!…大丈夫だっ、いま人を呼ぶ…!誰か!!誰かいないのか!!


カスミ:

な、んなの…ゲホゲホ、どうなって…


ヒヨリ:

はぁ、はぁ…フミヒト先輩が、あたしのことを突き飛ばした?!優しいフミヒト先輩がそんなことするはずない!

やっぱり洗脳されてるんだ!先輩を返せッッ!!


カスミ:

フミヒトっ!後ろっ!!


(SE:刺さる音)


フミヒト:

がああっ!!


ヒヨリ:

ああ、先輩の背中…あはは、刺しちゃったぁ…

あたしはずっとフミヒト先輩に抱きしめてもらいたかったんですよ?ねぇ、せぇんぱぁい…


フミヒト:

あ゛あ痛ぇ…っくっそ…!

ヒヨリ…、これで、いい、かよ…っ!(ヒヨリを抱きしめる)


ヒヨリ:

っ先輩があたしを抱きしめてくれたァ…っ!!あぁ、好きです!好きです!


フミヒト:

カスミ…逃げろっ!今のうちに逃げるんだっ!!


カスミ:

あ、…あ…。


ヒヨリ:

好きですフミヒト先輩…あたしが薬を、取り除いてあげますから…っ


フミヒト:

俺がヒヨリを抑えてるうちにっ!早く行けーっ!!


カスミ:

助け、を…呼んでくるからぁ!

…う゛っ、はぁはぁ…(腹を抑えながら走り出す)


ヒヨリ:

“彼”が言ってました…頭に薬が溜まっちゃってるから…それをナイフで突き刺してやれば取れるって…。


フミヒト:

“彼”って、誰だよ…、はっ…ま、まさか…!


ヒヨリ:

名前なんてありません、“彼”ですよ…!

この地球の危機を救っているのはカスミ先輩じゃありません、“彼”なんですっ…!!


フミヒト:

ヒヨリ、お前まであのクリスタルに毒されて…!

目を覚ませ!操られてるのはお前の方だっ!!


ヒヨリ:

フミヒト先輩、痛くしませんから、頭にちょーっとナイフを刺すだけですから!ねっ!?ねえっ!!


フミヒト:

ぐぅ…っ!背中の傷がっ…力が、入らない…やめろヒヨリっ!やめろおおお!


ヒヨリ:

これで優しいフミヒト先輩に戻れますからっ…!うああああ!


(SE:刺さる音)


フミヒト:

…アぁ゛…っ、ヒ、ヨ゛…




ヒヨリ:

はぁはぁ…よかった…これで、これでフミヒト先輩は助かる…えへへ…

大好きですよ、先輩。

先輩?どうして黙ってるんですか?


……ねぇ、フミヒト先輩???




(間)




カスミ:

はぁ、はぁ…


No Name:

やぁ。苦しそうだね。


カスミ:

どういうことなの…貴方なんでしょ?ヒヨリをたぶらかしたのは…!


No Name:

私はここから動けない。動いたのはあくまでも君たちだよ。


(SE:警報音)


機械音声(N):

緊急警報発令。緊急警報発令。東棟ひがしとうBブロックにて汚染物質 漏洩ろうえいのため隔離かくりします。西棟にしとうAブロックにてスプリンクラー発動。職員は直ちに…


カスミ:

一体何が起きているの…


No Name:

前に言ったろう。『地球温暖化で氷が解けて、氷山の中から私が見つかってしまったのは運命だったのだろう』と。


カスミ:

えぇ…。


No Name:

自分で言うのも何だが、私は昔、どうしようもない性格でね。アイツは、手に負えなくなった私を、この狭い箱庭の中の、巨大な氷山の奥深くに封印したんだ。


カスミ:

箱庭…?封印されたって誰に?!…痛っ…!


No Name:

ふふ、腹に力を入れると傷が広がってしまうよ?


カスミ:

質問に、答えなさいっ!


No Name:

君たちが神と呼んでいるヤツのことさ!この世界はヤツのオモチャなんだよ。今でいうところの放置ゲーというやつだ。

私から言わせれば、地球という名の箱庭が長く続くようにチマチマ遊んでいるクソガキだけどね。


カスミ:

はっ…あなたはそんなクソガキに、400万年も閉じ込められてたってことかしら?


No Name:

そうだ。私は馬鹿だった。

…でも人類はそれ以上の大馬鹿だろう?私を、外に出してしまったのだから。

君も実にちょろかった。自分を天才だと思っていたろ?なんでも科学で説明がつくのだと。でもそんな君の常識をくつがえす私の存在をどう思った?神に近いとでも思ったんじゃないか?


カスミ:

それ、は…っ!


No Name:

あのヒヨリという女も少しつついただけで簡単に憎しみと嫉妬に心を染めた。

…くだらない。本当にくだらない。


カスミ:

私が、ヒヨリが…何をしたっていうのよ!


No Name:

はぁ…。お前と話すのももう飽きた。全く、サルと遊んでいた方がよっぽど可愛げもありそうなものだ。

人類は『進化』という言葉に溺れるあまり、二足歩行した時からほとんど進歩していない。


カスミ:

あ、貴方に何がわかるっていうのよ!人類の歴史はっ…


No Name:

黙れゴミ。


カスミ:

何っ!クリスタルが、っすごい速度で増殖してる…っ!


No Name:

ゴミにしては君はよくやってくれた。君に惹かれているようなクサイ芝居までした甲斐があったよ。


カスミ:

酷い、私を騙したのね!


No Name:

「登場人物はそれぞれが主人公であり、それぞれが誰かの脇役である」

…いつだったか、こんな話をしたことを覚えているかい?

君はあの時、「私の人生の脇役になりたい」のだと、頬を染めて言ってくれたね…。

おめでとう。君は、私の立派な脇役だよ。私の身体の欠片を…クリスタルを!世界中にバラ撒いてくれたんだから!おかげで実に遊びやすくなったよ。


カスミ:

に、逃げなきゃ…!


ヒヨリ:

カスミせんぱぁい、ダメですよぉ?


カスミ:

ヒヨリっ!…そんな、フミヒトはどうしたの?!


ヒヨリ:

フミヒト先輩は、今寝てますよ。

頭にナイフを刺せば正気に戻るんですから…

あれは寝てるだけです。寝てるだけぇ!

あたしはフミヒト先輩を助けたんですよ!!…そうでしょ?ねぇ、そうだよねぇ?!?


No Name:

あぁ。死ねば洗脳もなにもないからね。


ヒヨリ:

え?死ねばって…フミヒト先輩は…し、死んでないっ!あたしはこの女が盛った薬を脳から取り出そうと

…な、ナイフ、で…

頭を…


カスミ:

ヒヨリ…


ヒヨリ:

いや…っ違う違うっ死んでないもんっ!フミヒト先輩は、死んでなんかぁぁあぁ(泣き崩れる)


No Name:

泣かなくてもいい。これから君も、フミヒト君のところに行けるよ。


ヒヨリ:

えっ…!本当ですか!


No Name:

あぁ。私が君たちを…いや、この世界を全てクリスタルで覆いつくしてやるからなぁ?


ヒヨリ:

あっ、クリスタルが増殖してく…!あぁ!足がっ!!いやっ、痛いっっ!!


カスミ:

ヒヨリ!ほら、足を抜くのよ!早く逃げ


ヒヨリ:

(さえぎるように)

逃げるなんて許さない!アンタとはまだ話は終わってない!フミヒト先輩は誰にも渡さないんだからああ!


カスミ:

いや、離して!そんなこと言ってる場合じゃ…!


No Name:

さぁ、どんどん増殖するよ?君たちも取り込んであげよう。


ヒヨリ:

いやあああ痛いっ痛いぃ!クリスタルに、取り込まれる…っ!カスミ先輩!あんただけ逃したりしないからぁああ!


カスミ:

離しなさいっ!私まで…!いやっ離して!離してぇぇぇ!!


No Name:

今世界は大混乱に陥っている。ガソリンや電気エネルギーとして世界中に散らばったクリスタルが、一気に増殖を始めているんだ…ふふふ。

私には聞こえているよ、クリスタルに取り込まれる人々の阿鼻叫喚あびきょうかんが!!


カスミ&ヒヨリそれぞれほぼ同時に:

カスミ:助けてお願い!何でもするからぁぁぁ!

ヒヨリ:やだやだ、フミヒト先輩助けてえええ!



カスミ&ヒヨリ:

いやあああ゛あ゛あああ!!!





(間)





No Name:

ようやく静かになったね。クリスタルの中の居心地はどうだい?

君たちにはお礼を言いたかったのに。

…残念、もう聞こえていないね。


(一呼吸おいて)


人類が誕生してから500万年あまり…。

アイツが大切にしてきた大事な大事な箱庭を、たった数日でクリスタルで覆いつくそう。

くっくっく…いい気味だ、あははははは!!!また最初からチマチマチと作り直すんだなぁ?


…カミサマぁ??






End.


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